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第5話

 名前を教え合ってヒートを起こしたその日、目が覚めると知らない部屋だった。  気怠い身体を起こして周りを見渡し、その匂いで直ぐにこの部屋が誰の部屋か分かった。  自分の運命の番、藍の部屋だ。  藍を探して寝室を出ると彼はリビングのソファに座っていた。こちらに気が付いていない彼に近寄った時に、抑制剤で落ち着いた筈のヒートが再び起こった。  部屋中にΩ特有のフェロモンが充満して、永絆も藍も理性を失い掛けた。その僅かに残った理性で藍は永絆を寝室へと押し戻し、永絆を一人残して部屋から出て行った。  ヒートを起こした身体は熱く疼いて、番に置いていかれたショックも重なり永絆は取り乱しながら一人で身体の疼きに耐えた。  彼がここから出て行ったのはお互いが望まぬ番にならない為だ。無理に永絆を犯したりしない為だ。  それはつまり永絆を番にするつもりがないという意思の表れなのだと察して、涙が溢れた。  ヒートの所為で感情がぐちゃぐちゃになっている。落ち着かせようと寝室の隅に置かれていた自分の鞄を見つけて抑制剤を取り出した。  一日に何回も飲んでいいものじゃない。抑制剤の副作用は個人差はあるけれど出来るだけ飲まないでいられた方がいいのだ。  けれどここには居られない。そもそも何故ここに連れてこられたのかも解らない。  あまり力の入らない手で瓶の蓋を開けると抑制剤を取り出して口に入れた。飲み下して効果が出るのを寝室の壁に凭れながら待った。  さっきは副作用で眠ってしまったけれど、今は眠るわけにはいかない。藍が戻って来る前にこの部屋を出て帰らなければ。  初めて藍と逢ったあの日以来、抑制剤の効果があまり効かなくなっていた。

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