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第9話

「番に出逢うと抑制剤が効きにくくなるって話は知ってるかな?」  ベッドサイドに腰掛けた中根に永絆は首を縦に振って答えた。 「藍の説明と君の今の状況から察するに、傍に寄れば寄るほど君はヒートを起こしやすくなるみたいだね。でも薬は効かない。一番の解決策は近付かない事だけど、同じ大学なんだって? 絶対に傍に寄らないなんてきっと無理だよね」  近付く事が出来ないのが永絆にはどうしようもなく辛く苦しかった。  藍に強く惹かれる気持ちは初めて逢ったあの日より、再会した今日の方がより強くなっている。  ヒートのせいだけではなく、どうしても藍の傍に近付いて触れたくて仕方がない。 「とはいえ、君と藍だけがフェロモンを感じるだけならいいけど君のフェロモンは周りも巻き込んでしまう。きっと君は沢山努力して大学に入ったんだよね? そのΩのフェロモンで藍以外の誰かに犯されたり番わされたら大学にも居られなくなる。それは避けたい。……だよね?」  この中根という人物はどこまで自分の事を理解しているのだろうかと永絆は不思議に思った。藍だけの説明でここまで解りはしないだろう。相当、頭のキレる人物だ。 「とりあえずは最悪の事態を想定して、ピルを処方するから毎日一錠飲んでね。もし犯されてもこれで妊娠は避けられるから」  そう言って中根は持ってきた鞄からピルの入った箱を取り出した。  永絆はその箱を呆然と見つめた。Ωが生きる為にやらなければいけない自衛策は幾つかある。  例えば発情期になったら家から出ないとか、首輪をするとか。  だけどそれは発情期が正常な場合だけだ。今の永絆は発情期がいつ来るかも分からない。大学内で藍に出くわせば忽ちヒートを起こす。常に発情期の状態と言っても過言ではない。

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