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第10話

「抑制剤は飲み過ぎたら耐性が出来るから通常の発情期以外は飲まないようにしてね。君の体質に合いそうな別の抑制剤を持ってきたからこっちを試してみて」  鞄からもう一つ薬を出すと中根は自分の連絡先の書いたメモを永絆に渡した。  そして永絆の頭をゆっくりと撫でた。 「番えれば一番良いんだけどね。それは僕が口出し出来る事じゃないから」  今日はここに泊まってゆっくり休んで、と中根は言った。藍は別の場所にいて今日は帰らないから、何でも勝手に部屋にある物を使って構わないと。  そしてまた永絆の頭を撫でたあと、中根は帰っていった。  手の中に薬が二種類とメモ。それを暫くボーッと見てから、ベッドの近くのローテブルに置いた。  藍が帰らないと聞いて少し安心して、けれど直ぐにまた悪い考えが湧き出す。  何のつもりで中根に会わせたのかは分からない。ただ、今日藍は帰らない。  ヒートを起こした運命の番を部屋に一人で置き去りにしたまま、彼はここには帰って来ない。  藍の残り香を感じながらその日、朝まで永絆はゆっくりと身体を休める事が出来た。  一日に二回もヒートを起こし、抑制剤を多く飲んだせいで精神的にも肉体的にも限界だったのだ。  心はとても冷えきっていて哀しみさえ感じなかった。ただひたすら、深い眠りに落ちていた。夢さえ見ずに。  起きてすぐにマンションを出た。  藍の匂いのする部屋に居続けるだけでヒートを起こしそうだった。自分の体質が藍と出逢ってこんなに変わるとは思わなかった。こんなに過敏に番に反応するなんて。

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