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第12話

 今、どんな顔をして話しているのだろう。  番うつもりもないのに何故そんな心配をするのか。心配するくらいなら再会したあの時に項を噛んでくれたら良かったのに。  そうしたら他の人にはもうフェロモンを撒き散らす心配はない。犯されたりもしない。  この身体も心も全てが藍のものになったのに……。 「……藍が、それで安心するならそうするよ」  きっと拒んでも藍は車を用意しておくだろう。それを無視してしまえば迎えに来た運転手が責任を取らされるかもしれない。  自分の事で関係のない誰かに迷惑がかかるのは嫌だった。  常に誰かに迷惑をかけないように生きていかなければいけないのがΩの宿命だ。発情期があるだけでも周りに影響を与えてしまうのにこれ以上迷惑をかけて生きるのは避けたかった。  大人しく送迎されておけば藍も文句は言わないだろう。今は再会した事と体質の問題もあってお互い冷静な判断が出来ていないけれど、少し時間が経てばきっと藍は気付くはず。  心配だから、なんてαのお情けで守られている事がΩである永絆にとってどれだけ屈辱なのかが。  番えないのなら何もしないで放っておいてほしい。  優しさも同情もいらない。そんなものは毒でしかない。  傍に近寄って、触れて貰えないのなら運命の番なんて意味は無い。強く惹かれ合う気持ちなんて苦しみでしかない。  それでも藍が好きだから。番になる夢を一度でも見てしまったから。望んでしまったから。  自分からは離れられない。離れたくない。傍に近寄れなくても、少しでもいいから関わっていたい。  藍に求められていると思っていたい。  出来れば藍がいつか自分を必要としなくなり、家が決めた誰かと家庭を築くまで。  それが無理ならせめてあと少しだけでいい。  藍の運命の番でいさせて。

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