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第13話

 翌日、大学へ向かおうと家を出るとそこには既にこの場所に似つかわしくない高級車が停まっていて二回程見た運転手が車の外で姿勢良く立って待っていた。  一体いつからそこにいたのか、永絆の姿を見つけると恭しく一礼をして柔らかく微笑んだ運転手は自らを前野と名乗った。  永絆より遥かに歳上で父親くらいの年齢だろう。自分にはそこまで丁寧な対応をしてもらう必要がないからと言っても、それが仕事だからと前野はその姿勢を崩さなかった。  大学までの道程をゆったりしたシートの隅に座って居心地悪く過ごした。あまり大学の関係者に見られたくなくて着いてすぐに車から降りると、小走りでその場を去った。  その日は構内で藍に遭遇する事はなく、至って普通の大学生活を過ごした。  講義を全て終えて帰ろうと大学の門の前まで行くと、既に前野が朝と同じように車から降りて永絆を待っていた。そして永絆の姿を見つけると上品に一礼をし、後部座席のドアを開けた。  高級車にお抱え運転手という光景は酷く目立ち、居た堪れなくなって急いで車に乗って持っていた鞄を抱きしめて外から顔が見えないように隠した。  身の丈に合わない扱いに躊躇う。藍がαの家系で所謂、お金持ちというものなのは初めて逢った時、直ぐに分かった。彼もそれを別に隠すこと無く堂々としていた。  一人暮らしをするには広過ぎる部屋や、送迎車やお抱え運転手。どれをとっても藍が特別な存在であることを示している。  そんな彼と番になれるだなんて夢、どうして見てしまったのだろう。そんな事出来るはずないのに。

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