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第15話
構内では偶に藍と出食わす事が何度かあった。
近くに居れば匂いが漂ってお互い気が付く。発情期の匂いとは別のものらしく周りには分からない様だったが、それはとても甘く痺れる匂いだった。
一定の距離を取りつつ、構内をすれ違う。その度に心臓が痛くなる。
これ以上はヒートを起こす、という距離感が段々と分かり始めた頃、構内で少し距離を取った状態で藍が声を掛けてきた。
「体調は大丈夫なのか?」
藍とまともに話すのは久々だった。
最後に話したのは電話での送迎の件だった。
その声だけで涙が溢れそうなくらいに胸が詰まって、直ぐには返事が出来なかった。
「……大丈夫。藍は心配しなくてもいいから」
噛まれても大丈夫な様により頑丈な首輪を前野に渡され、大学に行く時や外出の際は必ず付けている。ピルも毎日欠かさず飲んだ。
藍以外の誰かに身体を犯されるなんて事を想像しただけで鳥肌が立つ。ましてや妊娠なんて。
「……永絆」
「なに……?」
人通りの少ない場所で良かった。
藍と話している所をあまり他人に見られたくない。
再会したあの日、藍が永絆を抱えて走った事は暫く学生達の間で話題になっていた。
周りには自分がΩである事を隠している永絆は、たまたま貧血を起こして倒れた所を藍に介抱して貰ったと噂好きの学生達に話してあった。藍の耳にもその話は届いているだろう。
何せ彼は有名人だ。
その苗字を知らない人間など居ないだろう。
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