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第23話

「……キスも……拒んだくせに……」  どうしようもなく惹かれて、お互い思いあっていると信じていた。  初めて逢った時に交わした口付けを何度も思い返して心をときめかせていた。  そんなキスさえも、藍に拒まれた。あの時に何よりも確かめたかったのは番になるかどうかではなくて、永絆というΩを藍が受け入れてくれているかどうかだった。  一度だけ、再会の口付けを果たす事が出来ていたなら満たされたのに。 「受け入れたら理性が飛びそうだった。永絆、オレはお前を力強くでどうにかしたい訳じゃない」 「じゃあ何時になれば受け入れてくれるの? 藍はオレを番にするつもりあるの!?」  言ってはいけない言葉だった。  番になれないと分かっているのに、それを言えば藍を苦しめるだけだ。  家を捨てる事が出来ない藍を責めるのは自分勝手でみっともない。こんな事を言いたくてこの場所で一緒に過ごしているのではないのに。 「永絆、オレは」  藍からの答えは携帯の着信音で遮られた。  微かに感じていた藍の匂いが遠ざかり、教室の扉が開閉する音がした。  電話に対応する為に教室から出て行ったのだろう。隔てていた扉をそっと開けてみると教室には誰も居らず、藍の匂いが残っていた。  また置き去りにされてしまった。大切な話をしていたのに。  余程大事な電話だったのかもしれない。けれど永絆に一言もなく行ってしまった事が哀しかった。  こうやって一緒に過ごす時間を作る度に自分が藍にとって特別な存在なんかじゃないんだと実感する。運命の番なんて、そんなものは本当はないんだと否定したくなる。  一番に考えてほしいとは思っていない。だけどここに番がいる事を忘れないでほしい。席を立つ時は一言、声を掛けてほしい。それはそんなに我儘な望みなのだろうか。育ってきた環境が違い過ぎて藍の事が分からない。  分からないから不安になる。哀しくなる。  もっと知りたいのに。藍もそう思っているはずなのに。自分一人がそう思っているだけのようで怖くなる。  電話が終わればここに戻って来るかもしれない。だけど話の途中のままで放置された事がショックでここに居たくない。今はもう話をしたくない。  荷物を持って準備室から出ると、藍の匂いがない方向を選んで古い校舎を後にした。

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