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第24話

***  あの日から送迎の車は利用していない。  相変わらず永絆が大学へ行く時間になると家の前に待機している前野には申し訳ないと思いながらも自分の足で大学に行き、帰りも車が待機している場所とは違う出入り口から帰るようにしていた。  前野は少し哀しそうな顔でいつも見送ってくれる。彼は何も悪くないのに自分と藍の問題に振り回されている。大人しく車に乗れば前野も安心するのだろうけど、藍と関わりのあるもの全てを避けたかった。  藍には藍の考えや生き方がある。それは理解しているし、そういう事を色々話し合うべきなのも解る。ただのαじゃない、紫之宮家の跡継ぎだ。話も簡単にまとまりはしない。 永絆の言った事が藍を困らせるのは承知している。  ただ少し、夢を見ていたかった。この先、何の救いもないΩとしての人生を送る事への唯一のいい思い出になれば、と。  苦労して大学に進学し、卒業しても良い会社に就職する事は無理だろう。発情期のあるΩはその期間は家に閉じ篭り性行為以外の事は何も手につかない。身体だって自由に動かせない。そんなΩに大事な仕事を任せる企業なんてある筈がない。  中には性差別だと言ってΩを雇う企業もあるが、役職のあるポストに就くことはないし与えられる仕事は備品管理や雑務ばかり。  この先の長い人生、まともに暮らしていくのはΩには難しい。さっさと諦めて夜の商売を選ぶΩが殆どだ。それが悪い訳ではないがΩでなければ普通の生活が送れたのだと想像すると遣る瀬無くなる。  番を作って幸せに暮らすΩもいる。殆どのΩならそれを望む。永絆もいつか番を作りたいと思っていた。だけどそれは簡単じゃないと現実を突きつけられ、誰とも番わないと決めた。  決めたのに、藍に出逢ってしまった。  藍は優しく接してくれた。フェロモンで今にも飛びそうな理性を必死で抑えてくれた。 「噛まないで」と訴えた永絆に「噛まない」と言ってくれた。  車を降りる最後まで、藍は無理矢理犯そうとはしなかった。  別れた後から再会するまでの期間、この人なら番になってもいいのではないかと考えては打ち消した。番は作らない。例え運命で繋がっていても。

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