27 / 199

第27話

「……僕はね、これでもαなんだよね」 「そうなんですね」 「でも君がヒートの時に会っても平気だったでしょ?」 「……そういえば、そうですね」  αがΩのフェロモンに逆らえる筈がない。藍の様に理性が飛ぶ前に目の前から居なくなれば別だが、中根は平気な顔で部屋に入って来て話をしていた。 「小さい頃に大きな病気にかかって何日も生死の狭間をさ迷ったらしいんだけど、そのせいで繁殖機能がダメになったんだよね」 「子供が作れないって事ですか?」 「そう。性欲はあるよ、イけば出るものも出るし。でも肝心の精子は一つもない。だからかな、Ωのヒートにも反応しないんだ」  そんなαがいるなんて思ってもみなかった。αなのにαらしさがないのはそのせいなのかもしれない。 「αにだって僕みたいな体質がいるんだ。Ωにも色々な違いがあったって不思議じゃない。永絆くんだって藍にだけ近寄れないのは不思議だと思わない?」 「確かに、運命の番だからってだけで近付くだけでヒートを起こすのは変だと思います」  周りに運命の番に出逢った知り合いがいないから何が正しいのかも分からない。そもそも運命の番なんてものは都市伝説みたいな話で本当にあるとは思っていなかったのだから。 「僕はね、知りたいんだ。何でこの世にαとΩがいるのか。βだけでも世の中は成り立つ筈だ。人口の殆どがβなんだから」  メガネの奥の瞳がキラキラと輝いて見えた。まるで子供の様に好奇心旺盛な目をしていた。 「Ωだけに発情期があるのにも意味がある筈なんだ。そのΩと番えるのがαだけなのにもきっと意味がある。僕はそれが知りたい。そして発情期で苦しむ事がないように、副作用のない抑制剤や他の方法を見つけたい。紫之宮家は家が代々主治医を務めて来たから僕もその跡を継いだけど、本来は第二性別の研究にもっと力を入れたいんだ」  そこまで一気に話し終えるととっくに冷めてしまったコーヒーを飲み干して、一つ息を吐いた。

ともだちにシェアしよう!