30 / 199

第30話

 それから数日してから中根の働く病院へと行った。  紫之宮家の主治医をしているくらいだから、さぞ大病院だろうと予想していたが行ってみた場所はこじんまりとした小さな診療所だった。  中根の父親はまだ現役の医師で大きな病院の医院長をしているが、中根自身は研究に時間を取りたい為にこの診療所の持ち主である研修医時代の友人と交代で診療をしているとの事だった。  検査と言っても難しい検査はなく、採血をした後は問診でこれまでの病歴や発情期を向かえてからの周期、体調の変化などを聞かれた。  次回は発情期中のデータを取りたいと言われ、その時の姿を見られたくない永絆は渋った。いくら検査の為であっても自分が発情しているのを見られるのは耐えられない。  渋る永絆に「ヒートを起こしても自分には影響がないから」と哀しげに言われ、複雑な気持ちになった。  中根にもし運命の番が現れた時、彼はそれに気付くのだろうかと。  自分と藍は出逢った瞬間、ヒートを起こして自覚したけれど中根にはヒートの影響が出ない。相手がヒートを起こしても中根は気が付かずに通り過ぎてしまうかもしれない。  そんな考えが過ぎって、藍と出逢えた事は奇跡なんだと実感した。  元々、本当に存在するのかも分からない都市伝説だったものだ。それがめぐり逢えて、会おうと思えばいつでも会えるのだ。  それだけで幸せだと思わなければ、他にもどこかに居る発情期に苦しむΩ性に申し訳がない。  自分をきっかけにΩが生きやすい世の中になれば……。ちっぽけな変化かもしれない。だけどやる価値はあると信じたかった。

ともだちにシェアしよう!