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第35話

 何か普通のΩ性とは違うものが出たならそこからまた調べて対処する方法が見つかったかもしれない。けれど、何も見つからなかった。  藍との距離は縮むどころか余計に遠くなった気がした。 「研究者としては残念だけど、個人的な仮説を考えたから聞いてくれるかな?」 「仮説、ですか?」 「ホラー映画ってさ、初めて見る時は怖くてビクビクドキドキするじゃない?」 「……はぁ」  突然、ホラー映画の話をされて永絆は首を傾げた。中根の頭の中は一体どうなっているのか理解不能だ。 「でも同じ映画を何回も見たら慣れるし、何処に怖いシーンが来るか分かるでしょ?」 「……まぁ、そうですね」 「つまりね、藍と永絆くんもそんな状態だと思うんだ」  ホラー映画と自分達の関係がどう繋がるというのだろう。中根の言葉を理解しようと何度も反芻してみるけれど、永絆には全く意味が分からなかった。 「突然出逢って、また再会して、いつもなら無意識にコントロール出来ているフェロモンがあまりの衝撃で藍をきっかけに狂ってしまうんだ」 「……よく、分からないです」 「つまり、ホラー映画がフェロモン。藍が怖いシーン。何回も見る事で慣れるんじゃないかなって仮説をたてたんだ」  その例えはとても分かりづらいです、とは言えなかった。けれど中根の言わんとする事は何となく分かってきた。 「藍に何度も近付いていたらそのうちヒートを起こさなくなる、って事ですか?」 「その通り!!」  永絆は中根にバレない様に小さく溜息を吐いた。  例え話が無くても、そう説明してくれた方が分かりやすかったのにと。

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