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第36話
「もちろん、仮説だから絶対とは言えないけど。どうかな? 試してみない?」
「試すって……藍に近付くのは出来るけどもしヒートでおかしくなったらどうするんですか?」
藍に触れられたら理性を保っていられる自信はない。きっとはしたなく藍を求めてしまう。
藍もフェロモンに誘惑されたら、どうなるか。
番う事も、キスさえも拒まれているのにそんな仮説を試す事を藍が承諾するとも限らない。近付く事はお互い傷付く事になるかもしれない。
「それに関しては僕がきちんと監視して、危険だと判断したら止めに入るよ。必要なら鎮静剤を打ってでも間違いが起きないようにする」
間違いが起きないように。
中根が何気なく口にした言葉に胸が痛んだ。
きっと中根には悪気はない。永絆を気遣っての言葉だ。だけど、何かあったらそれは『間違い』になるのだと思われている。中根にさえも。
「……藍が、良いっていうなら」
「藍はきっと良いって言うよ」
何でそんな簡単に言えるんだろう。藍に絶対間違いを犯さない様に出来るから言えるのかもしれない。鎮静剤一本注射するだけで止める事が出来るから。
「絶対……藍に無理をさせないで下さい」
「もちろん、そのつもりだよ」
藍との距離を縮めたくて中根の話に乗ったのに、それなのに何故だろう。
前向きに考えて行動しているのに、どんどん遠くなっている気がする。藍からも、自分の気持ちからも。
こんなに好きで仕方ないのに、その好きが揺らいでいる。自分の気持ちなのにぐらついて、逃げ場所がなくなっていく。
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