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第37話
翌日、大学へ行くと携帯が鳴った。藍からの着信に永絆は一瞬迷い、結局出ずに電源を落とした。
検査をした事はもう中根から聞いて知っているのだろう。藍から電話が来る事なんて今まで殆どなかった。そして藍からの着信に出ると待っている言葉はいつも永絆を哀しくさせるものばかりだった。
友人同士が巫山戯あって話すような内容なんか一度もした事がない。
決まって事務的な内容ばかり。送迎されていた時は帰りの車が待っているという連絡だった。扉を挟んで会っていた時は急用で行けなくなったという連絡だった。
だからきっと今回も良い連絡ではない。それなら最初から聞きたくなんかない。
「永絆っ!」
大学敷地内を次の講義の為に移動していると藍の声が響いた。思わず足を止めて振り返ると駆け寄ってくる藍の姿が見えた。
胸が切なく痛んだ。
このまま藍の方へと駆け寄って抱きつきたい。
周りの目など気にせず藍の名前を呼んでぎゅっと強く抱き締められたい。
だけど、それは出来ないから。
「……永絆っ」
一歩後退るとそのまま背を向けて早足で歩き出す。
追い風が吹いて藍の匂いが微かに届くのを感じる。
「永絆っ」
距離を詰める事もないまま、永絆の後を追い掛けてくる藍。
何度も呼ばれる名前に足を止めてしまいたい衝動を抑え、二人で逢瀬を重ねた古い建物の中へと入って行く。
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