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第39話
「永絆……。オレは中根にも誰にも永絆が発情している姿を見せたくない」
「……何を、言ってるの? 最初に中根さんを寄越したのは藍だよ?」
「あの時はそんな体質になってるって知らなかったから。中根は抑制剤に詳しいしフェロモンに反応しないから任せたんだ。中根の仮説を証明する為の実験なんかで永絆を苦しめたくない」
藍の声は永絆を気遣う様に優しくて、嘘偽りは一切ないと思えた。そう思いたかった。
「永絆がもし、オレとちゃんと話したり触れたりしたいと思うなら」
「……思う、なら?」
「中根なんか居なくたって、今すぐここの扉を開けてしまいたい」
たった一枚。数センチの幅の扉。
それを開けるだけで触れたくて狂いそうな相手に手が届く。
「ヒート……起こすよ?」
「そうだな……。でも永絆の嫌がる事はしない。傷付けたくない。無理やりなんかじゃなくて、永絆の気持ちを尊重したい。だから、開けてくれるまで待つよ」
どうしてそこまで自分の事を気にかけてくれるのか、自惚れてもいいのか、永絆には自信がなかった。
一度でも受け入れたら終わってしまうかもしれない。
番だという事実に身体が満足してしまえば、それで藍は自分に興味をなくしてしまうかもと考えると怖かった。
Ωをペットの様に扱うαがいることをよく知っているから、藍もそうだったら立ち直れない程の傷を心に負いそうで。
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