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第42話
「永絆から、甘い匂いがする」
藍の鼻先が永絆の耳元を掠め、その匂いを吸い込む。
甘い囁きに鼓膜が溶けてしまいそうだった。溶けて、蕩けてしまうと思った。
「藍も……甘い……」
しっかり立っていられないほど、足から力が抜けていく感覚に怖くなって藍の肩に頭を寄せた。
「これは、ヒートなの?」
今までのヒートとは明らかに違う身体の熱さに自分の身体の状態が分からなくなった。
ヒートに似ているけれど、それ以上に全身を覆う花の匂いが永絆から不安を取り除き安堵を与える。
今までのヒートなら一瞬でも気を抜けば身体の疼きに負けてしまっていたのに、今はただもっとこの花の匂いの中でずっと寄り添いあっていたいと強く願うだけ。
それは藍も同じ様で、理性を飛ばすでも我慢するでもなく、ただひたすら優しく永絆の髪を撫で髪や額に小さく口付けを落とすだけだった。
後ろ手に藍が扉を閉めると準備室の中は二人の花の匂いで充満した。
身体は熱く火照っているのにとても心地よくて藍の胸の中で永絆はうっとりとその温もりに酔いしれた。
永絆を床に座らせると肩を抱いて優しく髪を撫で梳く藍の手。夢見心地の中で甘く蕩ける感覚が全身を包む。
「永絆……オレの番になって欲しい」
その言葉がどれだけ嬉しいか伝えたかったけれど、永絆は何も言えなかった。
番になりたいと思えば思うほど、藍のこれからの人生を考えずにはいられない。
お互いの覚悟だけで全て上手くいく様な、そんな簡単な話ではない。
「時間はかかるかもしれない。だけど必ず説得して認めてもらう。それでもダメならオレは紫之宮を出る」
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