43 / 199
第43話
説得しても誰も認めてくれないだろう。αの一族にΩの血が入る事を紫之宮と言う名門家は良しとしない。
だからといって藍が紫之宮を出る事など出来やしない。そんな事をしようとしたら自由に外にも出してもらえなくなる。
紫之宮家がどれほどαという血を重要視しているか。それは子供でも知っている常識の一つだ。
藍がそこまで考えてくれた。一緒にいる事を一番に望んでくれた。それだけでもう十分、幸せだと思わなければいけない。
こうして扉を開けて触れ合えただけで満足しなければ。
「藍……オレの話を聞いてくれる?」
「うん、なに?」
一つ息を深く吸い込むと甘い匂いが肺をいっぱいにする。
この甘い匂いすら胸に小さな痛みを刻む。
「オレは中学の時に受けた性別検査でΩだって判定されてすぐ、親に捨てられたんだ」
それは今も鮮明に残る記憶。
たった一瞬で今までの生活が失われた瞬間だった。
「元々βの両親で、Ωへの偏見が酷い人達だった」
Ωへの差別は日常茶飯事。誰彼構わず誘惑するフェロモンを振り撒く厄介な存在。身体を使って取り入る下賎な人種。
幼い頃からそう言われて育ってきた。そのせいでΩは汚い生き物だと思っていた。
そのΩだと判定された時、両親の蔑む顔が浮かんだ。
「これからはΩの特技を使って生きていけ。そう言われて家を出された。数日分の着替えと中学の制服、教科書。少しずつ貯めていたお小遣い。オレに残ったのはそれだけだった」
ともだちにシェアしよう!