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第43話

 説得しても誰も認めてくれないだろう。αの一族にΩの血が入る事を紫之宮と言う名門家は良しとしない。  だからといって藍が紫之宮を出る事など出来やしない。そんな事をしようとしたら自由に外にも出してもらえなくなる。  紫之宮家がどれほどαという血を重要視しているか。それは子供でも知っている常識の一つだ。  藍がそこまで考えてくれた。一緒にいる事を一番に望んでくれた。それだけでもう十分、幸せだと思わなければいけない。  こうして扉を開けて触れ合えただけで満足しなければ。 「藍……オレの話を聞いてくれる?」 「うん、なに?」  一つ息を深く吸い込むと甘い匂いが肺をいっぱいにする。  この甘い匂いすら胸に小さな痛みを刻む。 「オレは中学の時に受けた性別検査でΩだって判定されてすぐ、親に捨てられたんだ」  それは今も鮮明に残る記憶。  たった一瞬で今までの生活が失われた瞬間だった。 「元々βの両親で、Ωへの偏見が酷い人達だった」  Ωへの差別は日常茶飯事。誰彼構わず誘惑するフェロモンを振り撒く厄介な存在。身体を使って取り入る下賎な人種。  幼い頃からそう言われて育ってきた。そのせいでΩは汚い生き物だと思っていた。  そのΩだと判定された時、両親の蔑む顔が浮かんだ。 「これからはΩの特技を使って生きていけ。そう言われて家を出された。数日分の着替えと中学の制服、教科書。少しずつ貯めていたお小遣い。オレに残ったのはそれだけだった」

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