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序章第2話

 先輩が入院していた病院を、泣きながら飛び出したら、一緒に来ていた喜多川が駆け寄ってくる。 「ちょっ、西園寺くん、大丈夫かい?」  喜多川は僕の家にいる執事の息子で、ふたつ年上だった。年上だけど使用人の息子だしどこか抜けているヤツなので、呼び捨てにしてやってる。  だけど頼りないながらも、喜多川と先輩は同じクラスだから、今回のことでもいろいろ世話になっている存在だった。 「大丈夫じゃないっ! ああ、もうお前の顔を見てたら、余計悲しくなってきた」 「ごっ、ごめん。これ使って」  そっと差し出してきたハンカチを、強引に引っ手繰ると、流れてくる涙をぐいぐい拭った。  大きい背中を丸めながら小さくして、プラスチックレンズ越しから窺うように僕を見る。 「……王領寺には逢えたのかい?」 「逢えたけど振られちゃった。僕のどこが、いけなかったんだろ……」  再び泣き出した自分を促し、車に乗せてくれる喜多川。  自宅に向かって走る車に揺られながら、先輩にはじめて逢った日のことを、ぼんやりと思い出してしまった――

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