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序章第6話
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――せっかく先輩に逢えたのに。
いつの間にか好きな人が出来て、呆気なく振られてしまった僕。ひとりで大騒ぎしてバカみたいだ……
喜多川に借りたハンカチが、しっとり涙で濡れて、重くなっている。悲壮な僕を屋敷の中に誘導して、部屋まで送ってくれた。
「大丈夫かい? 西園寺くん」
「大丈夫じゃないっ……。頭の中が真っ白なんだけど」
涙声で答えると、頭を優しく撫でて、ベッドの脇に座らせる。
「今は、すっごく辛いかもしれないけど、そのうち、いい思い出になるよ」
「思い出だって!? そんなのにしたくないっ。あのさ喜多川、先輩の好きな人って誰だと思う?」
手にしているハンカチを握りしめ訊ねてみたけど、首を横に振るばかり。
「……どんな人なのか知りたい。手伝ってくれないか?」
「そんなこと知って、どうするんだい? 振られているというのに」
どうして喜多川は、こうもイライラすることばかり、言ってくるんだろう。分かったとしても、どうにもならないけど、知りたいと思ったら、徹底的に知りたいんだ!
「僕を振って、どうしてその人を選んだのか、理由がどうしても知りたいんだ。お願いだから、手伝ってくれよ」
喜多川の腕に縋りつくと、小さくため息をつかれた。
分ってる――知ったところで先輩とは、元に戻れることがないことくらい。
「分かった、ただし条件がある」
「また条件出すのか!?」
「好きな人が誰か分かったら、王領寺のことをちゃんと諦めること」
突きつけられた難題に、喉を鳴らしてしまった。僕ひとりでは何も出来ないからこそ、こういう条件を出した喜多川を、憎く思ったのだけれど。
「――分かった。諦める条件を飲むよ」
約束を交わすように右手で握手して、ふたりで先輩の好きな人を捜し出した。
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