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序章第6話

***  ――せっかく先輩に逢えたのに。  いつの間にか好きな人が出来て、呆気なく振られてしまった僕。ひとりで大騒ぎしてバカみたいだ……  喜多川に借りたハンカチが、しっとり涙で濡れて、重くなっている。悲壮な僕を屋敷の中に誘導して、部屋まで送ってくれた。 「大丈夫かい? 西園寺くん」 「大丈夫じゃないっ……。頭の中が真っ白なんだけど」  涙声で答えると、頭を優しく撫でて、ベッドの脇に座らせる。 「今は、すっごく辛いかもしれないけど、そのうち、いい思い出になるよ」 「思い出だって!? そんなのにしたくないっ。あのさ喜多川、先輩の好きな人って誰だと思う?」  手にしているハンカチを握りしめ訊ねてみたけど、首を横に振るばかり。 「……どんな人なのか知りたい。手伝ってくれないか?」 「そんなこと知って、どうするんだい? 振られているというのに」  どうして喜多川は、こうもイライラすることばかり、言ってくるんだろう。分かったとしても、どうにもならないけど、知りたいと思ったら、徹底的に知りたいんだ! 「僕を振って、どうしてその人を選んだのか、理由がどうしても知りたいんだ。お願いだから、手伝ってくれよ」  喜多川の腕に縋りつくと、小さくため息をつかれた。  分ってる――知ったところで先輩とは、元に戻れることがないことくらい。 「分かった、ただし条件がある」 「また条件出すのか!?」 「好きな人が誰か分かったら、王領寺のことをちゃんと諦めること」  突きつけられた難題に、喉を鳴らしてしまった。僕ひとりでは何も出来ないからこそ、こういう条件を出した喜多川を、憎く思ったのだけれど。 「――分かった。諦める条件を飲むよ」  約束を交わすように右手で握手して、ふたりで先輩の好きな人を捜し出した。

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