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直接対決!②

*** 「次の患者さんは――西園寺さん、診察室にどうぞ」  高校生の僕を不振がらずに、微笑みながら診察室に通してくれた、若い看護師さん。  先輩の想い人かもと考え、じっと観察していると、   「若いコに、そんな風に見つめられると、ドキドキしちゃうわ。どうしましょ」  なぁんて言いながら、肩をバシバシ叩かれた。  コイツは違うなぁと肌で感じ、診察室の中に入っていくと、目の前に白衣を着たキレイなイケメンが、こっちを見つめてくる。  ――何だろ、無言の圧力が、目から放たれているような……? 「西園寺さん、高校一年生ね。今日は、どうされましたか?」 「えっと、鼻風邪を引いちゃったみたいで……」  淡々と質問されたせいで、おどおどしなが告げると、眉間に深いシワを寄せて、カルテに何かを書き込んだ。 「風邪かどうかは、医者である俺が判断しますので」 「はぁ、そうですね」 「口を大きく開けてください」  素っ気ない声色が、見えない恐怖心を更に煽る。 (何だかおかしい。これじゃあ調査した感じの先生と、全然違うじゃないか)  あの後、喜多川とふたりで数人の患者さんに声をかけて、中の様子を調べてみたのだけれど、みんなが言ったのは、周防先生は優しくて、とてもいいお医者さんだってこと。  なのに今、僕を見ているこの人は優しいどころか、冷たい雰囲気をこれでもかと放っていて、心も身体も凍らせようとしているみたいだ。 「……喉の奥が、少しだけ腫れていますね。季節柄、空気が乾燥しているから、風邪が流行っているんです」  小児科医というより、外科医のような視線で僕を見てから、サラサラとカルテに書き込み、机に頬杖をついた。 「風邪の他に、誰かに逢いに来たんじゃないの?」  視線は、目の前に飾ってある絵を見ながらだったけど、僕に質問したのは明らかだ。  ぎゅっと両手に拳を作り、思い切って言ってやる。 「王領寺先輩、ここに来ていますよね? 通院してるからでしょうか?」 「元カレの君に、どうしてアイツのこと、わざわざ教えなきゃならないの?」 「……何で、知って――」 「俺たち、軽井沢の病院ですれ違っているんだよ。歩の病室から、泣きながら出てきたでしょ」  もしかして、この人が―― 「俺がアイツの、今の恋人だよ」  飾ってある絵から目の前にいる僕に、刺し殺しそうな視線で、じっと見つめてきた。 「患者さんから、アイツと同じ制服を着た学生が、病院のことを根掘り葉掘り訊ねてきたって話を聞いたときに、ピンときたんだ。で、俺に逢った感想はどうよ?」 「か、感想って、その……」  否応なしに、身体がブルブルと震えてくる。こんな人には、太刀打ちできない。 「俺からアイツを奪いに来たの? 残念だけどね、それは出来ないから。歩は俺の所有物だから」 「所有物って先輩は、モノじゃないですっ!」  人をモノ扱いするって、この医者は何を考えてるんだ!? 「だったら実際に、この目で見てみなよ。アイツのあの姿を見たら、嫌でも分るから」  診察室の外にいる看護師に、自宅にちょっと行って来ると声をかけて、僕を促しながら二階へと上がって行った。 「太郎、お前に面会だよー」  扉を開け放ちながら医者が言うと、リビングにあるテーブルにいた先輩が、えっ!?と声をあげて、こっちを振り向く。 「……何でお前が、ここにいるんだよ?」  明らかにショックを受けた先輩が、手に持ってるスプーン片手に固まった。  その姿は、何故か犬の着ぐるみを着ていて……  互いに固まる僕たちを鼻で笑いながら、先輩の傍に歩いて行って、着ぐるみの頭をわしわしっと撫でる医者。 「コイツは、俺の言うことを何でも聞いてくれる、本当に可愛いヤツなんだ。どんな格好でもしてくれるんだよ」 「ちょっ、タケシせんせ――」 「この間はウサギの着ぐるみに包丁を刺して、自作自演してくれたせいで、ダメにしちゃってさー。構ってやらないとすぐ、いじけるんだから。あんまりオイタしたら、お尻に大きな注射しちゃうからね」  ――全然違う。  学校で見た先輩と、今の先輩が違いすぎて、声が出せない。  外科医のような小児科医に、いいように弄られ、あたふたしてすっごく翻弄されていて、まるで子どもみたいだ。こんなの、僕が好きだった先輩じゃない!! 「あの、先輩お邪魔しました。どうかお幸せに……」 「西園寺さん!」  頭を下げて立ち去ろうとしたら、突然声をかけられたせいで、足がぴたりと止まる。 「鼻風邪は大したことがないから、あったかくして、自力で治しなさい。診察代、タダにしてあげるよ」  病院で逢ったときとは違う声色で、優しく告げられた。  もう一度頭を下げてから、逃げるように病院をあとにした僕を、外で待っていた喜多川が慌てて追いかける――

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