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直接対決!③
***
「西園寺くん、どうしたんだい?」
逃げるように病院を出た僕の腕を、引き止めるように掴んできた。
「喜多川、僕はショックだ――先輩があんな格好して喜んでいる姿なんて、見たくはなかった」
「あんな格好って……」
「医者の自宅で、犬の着ぐるみを着てたんだ。頭を撫でられて、すっごく嬉しそうな表情しちゃってさ。きっと先輩は毎夜、あの医者に襲われ……」
ワンワン啼かされているんだと想像した瞬間、ぶわっと悪寒が走った。
「王領寺が犬の着ぐるみねぇ。意外と似合ってるかも」
「何をのん気なこと言ってるんだ。僕の中では先輩は、そういうことをしない設定だったんだから」
憧れてただけに、ショックが大きい――
「設定って、それも可哀想な話だね」
「何だよ、文句があるのか?」
「人って意外性があるから面白いと思うし、惹かれるんじゃないかなって。そんな押し付けるような設定、可哀想だよ」
落ち込んでいる僕の頭を宥めるように、優しく撫でてくれる喜多川の手の大きさに、何だか癒されてしまった。
「西園寺くんも意外なトコがあって、面白いけどね」
「……どこがだよ? 僕は普通だろ?」
「普通じゃないよ、同性を好きになるなんて。俺からみたらミラクルだ」
――コイツ、無性にムカつくな。
「僕が、喜多川に迫ったらどうする?」
「は!?」
「お前、さっき言ったじゃないか。意外性があって、面白いから惹かれるって。それって意外性のある僕が迫ったら、惹かれてくれるって話だよな?」
頭に置かれている手を取り、ぎゅっと握りしめてやると、顔を真っ赤にさせた。
「なっ、何を考えてるんだっ。そんなコワイ顔して迫られても、惹かれたり、しないよ……////」
あたふたしまくって、メガネをズリ下ろす情けない姿に、落ち込んでいた気持ちが、一気に盛り上がる。
不思議だな。喜多川といると、素直になれる自分がいる。
「しょうがないから、その情けない顔を見ながら、本当の恋でも探してみようっと。手伝ってくれよな、喜多川」
呆れながら体当たりすると、大きな身体が簡単に吹っ飛ばされ、舗道に横たわった。何やってんだか――
転ばせてしまった原因が自分なので、渋々手を差し出すと、大きな手でぎゅっと掴んだ。
「ありがと、西園寺くん」
「いや……礼を言うのは僕のほうだ。いろいろありがと、助かった」
思わずテレてしまい乾いた声色で、つい言ってしまった。
そっぽを向いて、告げてしまった理由。喜多川の大きな手から伝わってきた熱が、僕の中にふわりと入ってきたんだ、突然。
それを意識した途端、身体の奥が熱くなり――
「どうしたの?」
「いや、何でもない。帰ろう……」
いつも一緒にいたから、意識していなかった。僕みたいなワガママ人間に、文句や条件を突きつけつつも、きちんと対処してくれたんだ、コイツは。
――僕が迫ったら喜多川は、本当に逃げちゃうんだろうか?
踏み込みたいのに踏み込めない微妙な距離感に、自分のもどかしさを感じずにはいられなかった。
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