13 / 36
Always With You:恋って何だろう?③
――そして現在……
高い偏差値と家のグレードの高い生徒だけが通える、私立の男子高に一緒に通うこととなり、以前に比べると間近で西園寺くんを、観察することが出来てはいるが。
各学年にいるであろうキレイめな学生を上級生が1名選び、『姫』と呼ばせる伝統があって、1年生からは西園寺くんが選ばれてしまった。
そう……選ばれてしまったら最後、特殊な趣向をした学生に、見事狙われてしまうんだ――
俺の心配は尽きない。だけど西園寺くん自身も、一筋縄ではいかない人で。
「あっ、喜多川ぁ。何かいきなり、そこで襲われかけたんだけど、こういうのって、どうすればいい?」
強い精神を育成するためだと、ふたり揃って柔道だの合気道だの、いろんな武道を嗜んでいたから襲われても、適度に対処することが出来ていた。
小さくて細い体をしているというのに、そんなの関係ないといった風に、うつ伏せにした相手の体の上で、首を絞めかけている姿に、内心安堵する。
今のところ、集団に襲われていないのが救いだ――
「ダメじゃないか、西園寺くん。なるべくひとりで、行動しないようにって言ったのに」
「だって3年のフロアに行こうとしたら、みんなビビっちゃって、ついて来ないんだもん。喜多川に用事があったんだ。だけどコイツ、男がスキとか信じられないんだけど」
そう言っていた本人から、あんなことを聞くとは思いもよらなかった。
『お前のクラスにいる、王領寺って人、恋人いるの?』
そういう色恋沙汰について、西園寺くんの口から聞いたことがなかったからこそ、目を丸くするしかない。
「西園寺くんまさか、王領寺のことを好きになったのかい?」
『好きっていうか気になる存在。何とかして僕に、夢中になってほしいなって思ってるんだ』
「何を考えてるんだよ、相手は男なんだよ。夢中にさせる対象じゃないってば」
こういうセリフを、最近まで自分から言っていたハズなのに一体、何があったというんだ!?
『男だろうが何だろうが、付き合いたいんだ、絶対に!』
言い出したらきかない、西園寺くんの性格をよく分っていたから、渋々情報を流すしかなかった。情報を流しつつ、王領寺の捜索をし、どこかで諦めるきっかけを探していたとき――
『先輩……他に好きな人が出来たって。振られてしまった……』
病気で入院していた病院を突き止め、お見舞いに行った西園寺くんが、泣きながら出て来たのだった。
泣きじゃくる彼に、そっとハンカチを手渡してやる。
王領寺との付き合いを反対していたけれど、こんな風に大事な幼馴染が泣くところを、見たくはないと思った。
車で家に戻り、部屋に入って落ち着いたところを見計らい、そっと声をかけてみる。
「今は、すっごく辛いかもしれないけど、そのうち、いい思い出になるよ」
ありきたりかもしれないけれど、今の西園寺くんに、ぴったりな言葉だと思った。
『思い出だって!? そんなのにしたくないっ。あのさ喜多川、先輩の好きな人って誰だと思う?』
心配する俺の気持ちも露知らず、手渡したハンカチを握り締め、顔を苦痛に歪めながら、必死に訊ねてくる。王領寺とは同じクラスだけど、積極的に関わり合いたいと思えないクラスメートなので、全然分からなかった。
『僕を振って、どうしてその人を選んだのか。理由が、すっごく知りたいんだ。お願いだから、手伝ってくれよ』
必死に頼み込んでくる姿に、いつものごとく条件を出してやる。
「好きな人が誰か分かったら、王領寺のこと、ちゃんと諦めること」
男になんかに、うつつを抜かしてないで、ちゃんとした恋愛をしてほしい――
そんな願いを込めて、しっかりと条件を伝えた。
その後、王領寺の相手と対面し、俺の計り知れない、何かがあって、呆気ないほど西園寺くんは、王領寺のことを諦めてくれたけど。
最近、浮かない顔ばかりしていた。
失恋した直後だから、しょうがないだろうが、落ち込んだ状態が続くのは、どこかおかしいのだ。
西園寺くんの性格は、じわじわっと燻り続け、煙を上げる線香ではなく、ぱーっと派手に打ちあがる、大きな打ち上げ花火と表現したらいいかも。
「どうしたんだいって聞いても、そっぽを向かれちゃうし俺ってば、気に触ることを何かしたかな?」
王領寺の件については、抜かりなく仕事を果たしたし、他に思い当たる節がなくて、お手上げ状態だ。
くったくなく笑う、圭スマイルが早く見たい――
「作り笑いしか出来ない自分とは違う、キラキラした眩しい笑顔が見たいのにな」
体育の授業の最中、グランドを走りながら、ふと1年の教室がある、校舎を眺めてしまう。
「西園寺くん……」
同じく数学の授業中だというのに、グラウンドで走る喜多川を見つけ、西園寺が微笑んでいるなんて、喜多川は知る由もなかった。
ともだちにシェアしよう!