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Always With You:恋って何だろう?⑤
「3年のクセして、おバカなクラスメートで悪ぃ。昼飯、学食なんだけどいいか? 話があるんだ」
――今頃僕に話って、一体何だろう?
その理由が知りたくなったので、OKしようと口を開きかけた瞬間、
「西園寺くんっ」
ズリさがったメガネをそのままに、慌てた様子で走って来た喜多川。
「ナイスなタイミングだな。西園寺が用事あるらしくって、顔を出してたんだ。ほら、何かあったんだろ?」
「……ただ、お昼を一緒に食べようとしただけで」
ちらちらと喜多川と先輩の顔を、交互に見る。
僕の不安なキモチを慮ってか、心配そうな表情をありありと浮かべる喜多川に、何か言ってやりたいのに、言葉が上手く出てこなかった。
「なぁ喜多川、西園寺借りるけどいいよな? ちょーっとだけ、込み入った話になるから、お前混ぜて話せないんだけど」
「込み入った話ね。分かったよ、ただし――」
メガネをくいっと押し上げ、睨むように先輩を見上げる喜多川。
「西園寺くんを悲しませるようなこと、絶対にしないでくれよな」
低い声で言い放ち、振り切るように背中を向けてしまった。戸口には、先程騒いでいたクラスメートが、張り付くように僕たちのことを見ていて、ギョッとするしかない。
「……何を見ているんだ。そんなところにいられたら、教室に入れないだろ」
「(||゚Д゚)ヒィィィ!(゚Д゚||)喜多川が激怒ぷんぷん丸状態!? 王領寺に姫を渡しちゃったのかよ」
「そんなに怒ってないって。腹が減って、少しイライラしてるだけだから。そこのふたり、昼休みは永遠じゃないんだから、早く行ったらどうだい?」
目の前にいるクラスメートと、僕らに声をかけてから、消えるように教室に入っていった。その背中を見送っていたら、優しく肩を叩いてくれる先輩。
「喜多川の言うとおりだ、さっさと行こうぜ」
促すように声をかけられたので、ふたり肩を並べて、学食に向かったのだった。
先輩と学食に入った瞬間、そこにいた生徒の視線を一斉に浴びた。そしてヒソヒソと何かを囁かれる。
「俺、食券買わなきゃならないから、えーっと……窓側のあそこ、空いてる席で、待っていてくれないか?」
「分かりました……」
皆の視線を物ともせず、いつも通り振舞う先輩に感心しながら、言われたところに座った。
う~……相変わらず、こっちに視線がビシバシと当たってくる。
居心地が最悪な雰囲気の中、もじもじして待っていると、湯気を立てた、うどんのセットを手に先輩がやって来てくれた。
「お待たせ。さっさと食おうぜ」
「はい……あのぅ、先輩は気になりませんか?」
「は? なにが?」
勢いよくうどんをすすって、小首を傾げる。僕は小さくなりながら弁当の包みを開け、やっと蓋を外すことが出来た。
「え~その、周りの視線がすっごく、こっちに向いていて」
「確かにな、でもしょうがないだろ。1年の姫と俺が、一緒にいるワケだしさ。そんなの気にしてたら、ここではやっていけないぜ」
意外と繊細なんだなと一言付け加えて、実に美味しそうにセットについていたオニギリを、ぱくっと食べる。
3年間、ここで過ごしてきた先輩からの、重い一言なのかも――
「そんな難しい顔すんなよ。俺ってばタケシ先生から、バカ犬呼ばわりされてるから、マジでバカで無神経なだけだしさ」
「バカ犬――あ……」
箸で摘んでいた卵焼きが、ぽろっと手元から落ちた。
そうだよ、あのとき――周防小児科医院で見てしまった、先輩の衝撃的な姿!
「あの、先輩って……コスプレしたまま、あんあん啼かせられているのでしょうか?」
僕の言葉に一瞬で凍りつき、食べていたうどんを、口からダラダラ溢した。
「わわっ!? 先輩、大変なことになってますって」
「お前が、変なこと言うからだろ。やっぱ誤解されていたか」
テーブルの上に、あらかじめ置いていたふきんで、汚れた部分をキレイに拭いながら、じと目で僕を見る。その目が白いこと、この上ない。
「アレを見て、どうしてそんな風に思ったのか、ぜんっぜん分かんねぇんだけど。俺がタケシ先生を、ヒーヒー言わせてるんだからな」
「ええっ!? あの外科医みたいな小児科医が、ひーひー言ってるんですか!?」
「ぉ、おうよ。経験値が物をいうんだよ、こういうときはさ」
「経験値……」
こういう話が出来るのは、先輩がゲイだからだ。喜多川とじゃ無理なことで――
「西園寺、お前変わったよな」
再びうどんをすすりながら、僕の顔をじっと見つめる。
「変わりましたか? どこら辺が?」
弁当の中にあるご飯を、さっさと口に運んだ。昼休みの時間が、あまり残っていないことに気がついたから。
「んー……キレイさに、まろやかさが出たというか。前は、トゲがある感じだったからさ」
「先輩、今更ながら、僕のことをくどいてます?」
付き合ったときに言ってほしかった言葉をどうして今、言われたんだろうか。
しかも、キレイだと褒められたのに、そこまで嬉しくない――
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