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Always With You:伝えたいキモチともどかしい想い②

***  バレンタイン当日の朝――全国にいる本気チョコを渡す女のコ同様に、僕も気合が入っていた。  いつもより早く起きて髪の毛を梳かし、入念にセット。制服も埃とりでキレイにしてから、鏡の前で着込んでみる。 「お気に入りのコロンを、ぱぱっと振りかけてっと」  そして小ぶりのチョコの箱を手に取り、しばし考えた。 「胸ポケットに忍ばせたいけど、体温で溶けたら元もこうもないから、ブレザーの大きな方に入れておこうっと」    左右どっちにしようか、どちらにしようかなで決め、左側のポケットに入れた。  窓の外を覗くと、いつものように喜多川が、家の前で待ちわびていた。 「うわぁ、既にドキドキしちゃってるんですけど……」  もう一度、鏡の前に立ち、頭の先から足の先まで入念にチェックしてから、髪形が崩れないように、注意して部屋を飛び出す。 「おはよう、西園寺くん」  いつものように話しかけてきた喜多川に、どぎまぎしながら顎を引いた。 「あ、おはよ……喜多川」  うわぁ、態度悪ぅ――もっと明るく言えば良かった。 「いこうか」  僕の態度を気にした様子もなく、さっさと歩き出す背中に、手を伸ばしかけて、力なく下ろす。  手渡すタイミングとるのが、すっごく難しいぞ。何とか、きっかけを作らなければ! 「あ、あのさ喜多川。今日はバレンタインだね」  たたたっと急ぎ足で喜多川の隣に並び、上ずった声で話しかけた。 「そういえば……自分には縁のない行事だから、言われるまで気がつかなかったよ。去年は登校途中に、女子高生にチョコ渡されていたね」  大事な日であることを忘れ、思い出さなくていいことをちゃっかりと思い出す喜多川に、顔が引きつりまくりだ。 「……そんなことが、あったような」 「西園寺くんは、どこにいても人目を引く容姿をしているから、しょうがないさ」  苦笑いをして、僕の顔を見つめてくる。 「なに?」 「ん~……今日の西園寺くん、やけに、気合が入ってるように見えて。いい匂いも漂ってきているし」  喜多川、気付いてくれた――  自分の変化に気がついてくれたことが、やけに嬉しくて、口元が緩んでしまった。 「もしかして今日、バレンタインだから、たくさんの女のコにチョコレートを貰おうと、カッコつけてみた感じだったりして?」 「( ▽|||)はい?」 「そんなことしなくたって、今年もきっとたくさんのチョコが貰えるよ。だって西園寺くん、いつもカッコイイし」 「……なぁ、お前は僕が女のコからチョコを貰っても、平気なのか?」  さっきまでの嬉しさが一転、一気に暗いキモチへと変化していく。  低い声色で訊ねた不機嫌満載な僕を見て、うぅっと言葉を飲み込んだ喜多川。 「僕が誰かにチョコをあげたりしたら、気になったりする?」 「もしかして、王領寺にチョコレートをあげるのかい?」  ――何で、先輩の名前が出てくるんだ!? 「どうしてそう思うんだよヾ(*`Д´*)ノ"」 「や、だってこの間、王領寺とお昼一緒に食べてから、西園寺くん何だか、心ここにあらずだったし。もしかしてスキなキモチが、再燃したのかと」 「そんなのあるワケないだろ! だって喜多川と約束したじゃないか。先輩のこと諦めるって。僕が守れないと思ったのか、お前っ?」  ショックだ……そんな風に思われていたなんて―― 「西園寺くん!?」  目の前がゆらゆら、水の中に入っているみたいに見える。 「喜多川のバカ! もうお前なんて大っ嫌いだっ!!」  流れ落ちてくる涙をごしごし拭ってから、喜多川をおいて、逃げるように駆け出した。  だけど――  そんな僕を、喜多川は追っては来てくれなかったのである。

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