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Always With You:渡せないチョコ
結局、バレンタイン当日は、朝逢って以来、喜多川との接触が出来なかった。
逢って聞かれたら困る理由がありすぎて、どうしても逢うことが出来なかった。
そして――
「僕は喜多川がいないと何も出来ない、バカな男だということも、どうにもならない恋心も……」
お互いに好きあっていれば、同性でも問題はないと言っていた喜多川だが、僕が迫ったりしたら、全力で拒否られそうで怖い。
拒否られたら、もう立ち直れそうにない……前回挫けて、痛みを知っているからこそ尚更。
「いつも世話になってるから、受け取っておけよ喜多川」
そう言って手渡し、脱兎の如く逃げるというシュミレーションまで、頑張って立てたというのに。
本日2月15日、自分の机の上には、渡しそびれてしまったチョコがある。箱の透明なフィルム部分から見える、ハート型のチョコに書かれた白い文字。
『スキです』
「これを見たアイツがどんな顔をするのか、想像するだけで怖い。そしてその後、対面したときに、どんな言葉を投げかけられるのか――」
渡せなかったチョコ……伝えられない気持ち――このまま放っておけるなら、そのままにしちゃうけど。
「この関係を崩すのが怖いとか……ホント臆病すぎる。だけど僕は――」
勇気を絞り出してチョコを手に取り、胸の中にぎゅぅっと抱きしめた。
自分の気持ちを、誤魔化すことなんて出来ない!
チョコを手にしたまま、机の上に置いてあったスマホを手に取り、思い切って喜多川にコールした。時刻は、午後8時42分。家にいる時間だろう。
無機質な音が数回鳴った後、遠慮がちな声が耳に聞こえてきた。
「……はい」
「あっ、あのさ喜多川っ。今から出られる?」
「うん、大丈夫だよ」
僕の問いに、少しだけ笑った喜多川の声が響く。
「だったら、付属小学校前に集合な! じゃあ!!」
まくし立てるように言い放ち、ぶちっと通話を切った。
顔を見ていない、ただ声を聞いただけなのに、こんなにドキドキしちゃうとか。
ふるふる首を横に振って、呪文を唱える。
「大丈夫、大丈夫。とにかく伝えるんだ、自分のキモチを。どんな答えが待っていても、きちんと伝えなきゃ!」
気合を入れながら、勢いよく部屋を飛び出した。頭の中は、これから行うシュミレーションで、いっぱいいっぱいだった。
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