22 / 36
Always With You:真実の恋②
「……大嫌いって言ったから、それを訂正しようとしてる?」
その言葉に、なんて返事をしたらいいんだ――思い切ってずばっと言えたら、楽なのにな。
「訂正っていうか、あの……それ、バレンタインのチョコであって」
無意味に前髪を弄りながら、窺うように喜多川を見たら、小首を傾げて不思議そうな表情を浮かべていた。
僕の言った言葉の意味が、やっぱり分からないよな。上手くキモチを伝えられない、自分が悪いって分かっているのに。
う~~っと、じれったく思いながらも、何とか言葉を続けてみる。
「バレンタインってさ、ほら、あれだろ? あれしかないだろ、喜多川……」
「あれって、なんだろう?」
おいおい、一般男子な答えに、なんだろうはないだろうよ!
「バレンタインといえば、愛の告白だって! それくらい、どうして分からないんだっ」
「……だって身内以外に、一度もバレンタインにチョコ、貰ったことがないし」
「だったら分かっただろ、僕のキモチが」
「うん。西園寺くんは俺のこと、スキなんだよね?」
わざわざチョコを見せながら、ニコニコして言ってくれた喜多川。
(――ちょっと待て、この感じ……)
「喜多川、僕はお前がスキなんだ」
「さっき逢ったときも言ってたよね、それ」
スキの意味を理解していないよ、コイツ。
「一応、愛の告白なんだけど……」
「ん? 愛? (゚ー゚*?)」
「いい加減、気づいてくれよ喜多川。僕はお前のことを、愛しているんだってば!」
かたんっ!!
喜多川が手にしていたチョコを、驚いた衝撃で地面に落した。
「あ……」
「うげっ、割れちゃったじゃないか」
ハート型のチョコが真ん中からキレイに、真っ二つに割れている状態。まるで、くっつくことの出来ない、僕と喜多川の心みたいだ――
「うっ……」
じわりと涙が滲んで、見つめていたチョコが、どんどん歪んでいく。
「ゴメン、あの、その……落すつもりはなかったのに、手から滑ってしまって」
「"(/へ\*)"))ウゥ、ヒック」
「これちゃんと食べるから。泣かないで西園寺くん」
拾い上げて、箱についた砂埃を払う音が、耳に聞こえてきた。
――どうして僕が泣いているのか、全然分かってない。
「あ~もぅ、ムカつく……僕のキモチを無視して、何を言っているんだ」
「だって、俺の不注意で落としちゃったんだし」
「そんなのは、どうでもいいんだよ!」
「どうでもよくなんかないって! だってこれには西園寺くんの大事なキモチが、込められている物でしょ。だから大切にしなきゃ、ダメじゃないか!」
――そのキモチの意味、分かってくれているのか?
両手で涙を拭い、目の前にいる喜多川を見たら、さも大事そうに胸元にチョコを抱えていた。
「喜多川……」
「俺、西園寺くんに大嫌いって言われて、すっごくショックを受けた。しかも泣かせてしまった原因を作るとか、最低な幼馴染だって思ったよ」
「お前は僕のこと、どう思ってるんだ?」
勇気を振り絞って、あえて訊ねてみる。
幼馴染というワードが出た時点で、聞くだけヤボなのかもしれないけれど、きちんと喜多川のキモチが知りたかった。
「俺は西園寺くんのこと、大事に想ってる。キズつけたくないし、キズつくところを見たくない。キズつけるヤツがいるなら、全力で君を守りたい。そう、思っていたんだ」
「うん……」
「王領寺に恋をして、キズついた君を見て、早く立ち直ってほしかった。だから今度も条件をつけて、いつものように接して、笑顔になってほしかったのに……何故だか、泣かせてしまったよね。俺のせいで、さ」
「そうだよ。喜多川に泣かされた」
唇を尖らせながら指摘してやると、照れたときによくやる、髪をかき上げる仕草を何度もする。
「え~っと、その……俺も西園寺くんのこと、スキなんだと思う。多分っ!」
「なんだよ、多分って」
「だって、よく分からないんだ。いつも傍にいるのが、当たり前になっていたし、大事に想うのは、当然のことになっているし」
「だったらドキドキするようなこと、僕としてみない?」
最後の手段だと考え、喜多川のまん前に立ち、両手でぐいっと首を掴んで、自分に引き寄せた。
「うわぁっ!?」
「僕とキスしてドキドキしたら、それはきっと恋なんだよ」
「そんな、横暴な……」
「黙って!」
ぱくぱくする喜多川の唇を、ちゅっと塞いでみる。またしても手に持っていたチョコを、地面に落してくれた。
かたんっ!
「あ~っ!」
「ごっ、ゴメン! つい、体の力が抜けてしまって」
あたふたしながらチョコを手に取り、いそいそとポケットに仕舞いこむ。
「……それで、ドキドキした?」
じと目で喜多川を睨むと、視線を彷徨わせて、落ち着きのない態度をありありとする。
「ドキドキというか、ハラハラした。こんなトコ、誰かに見られたらって思ったら」
こんな時間、誰も小学校前なんて通らないから!
「喜多川がドキドキするまで、解放してやらない」
「そんなぁ……」
「今度は、お前からキスしてよ。ほら、早くっ!」
顔を上向かせるだけで何もせずに、目を閉じてみる。
すると諦めたのか、僕の肩に手を置いて、そっと唇を重ねた。重ねてくれたんだけど――
「ちゅ~~~っ」
何故か必死に、空気を吸い込む喜多川。舌を入れる気配すらない。
こりゃダメだと考え、自分から舌を入れてやった。
「うひっ!?」
そしたら体を飛び上がらせ2,3歩後退して、地面に尻餅をつく始末。
「何やってんだよ、お前。ベロちゅーくらい、当然だろ」
情けない格好をした喜多川に、そっと手を差し伸べてあげた。前にも、こんなことがあったっけ。
大きな右手が僕の手を掴み、強く握りしめてから、ゆっくりと立ち上がる。
「なぁ、喜多川は僕のことスキなんだろ?」
「うん……」
「こういうこと、僕としたくない?」
この質問は今の喜多川にとって、答えづらいものだろうと思った。
「こういう、こと……////」
呟いた途端、夜目でも分かるくらい、顔全部が真っ赤になる。
「そうだよ、これとかアレとか。僕の全部を喜多川にあげるから、受け止めてほしいんだ」
「西園寺くんの、ぜんぶ……////」
「あ……」
メガネの奥の瞳が、どこかに逝っちゃった感じ――
結局、喜多川のせいで、見事雰囲気がぶち壊れてしまい、この夜の告白劇は、終了してしまったのだった。
ともだちにシェアしよう!