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Always With You:真実の恋④
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放課後、喜多川に呼び出された場所は、3階にある音楽室だった。約束の時間より、少し早めに到着したので、喜多川はまだ来ていない。
ピアノと備え付け椅子以外、何もないトコなので、しょうがなく、その椅子に腰かけた。背後にある窓からの景色をぼんやり眺めると、真っ赤な夕日が町並みを照らしていて、キレイなその様子に目を奪われてしまう。
「僕らの教室と1階違うだけなのに、随分といい景色が、ここから拝めるんだな」
次回の個展に出す美術部の絵を、ここで描いちゃおうかなぁと考えていたときだった。
「悪いっ、待たせた?」
息を切らした喜多川が、扉を開け放ちながら登場した姿に、ドキンと胸が高鳴る。その衝動に思わず立ち上がったら、座っていた椅子が、音を立てて引っくり返ってしまった。
「うわっ!?」
「大丈夫かい、西園寺くん?」
「あ、大丈夫。喜多川がいきなり入ってきたから、驚いちゃって」
あたふたしながら椅子を元に戻すと、扉を施錠した喜多川が、ゆっくりした足どりで、こっちに来てくれる。
どうしよう……何かムダに、緊張してるんですけど!
「西園寺くん、こっち」
僕の左袖をくいくいっと引っ張って、扉から遠いところに連れて行く。
「どうしたんだ、喜多川?」
「いやぁ、そのぅ……ちょっとしたアクシデントで、西園寺くんと付き合ってること、クラスメートにバレちゃって、追いかけられてしまったんだ」
「僕は別に、バレるのは構わないけど大変そうだな」
クラスメートに追いかけられたから、走ってまいて来たのか。頬っぺたが、すっごく真っ赤になってる。
「西園寺くんの人気は、すごいね。こんなことになるとは、思いもしなかったよ」
「僕は……喜多川だけに想われていたい」
走った後で、熱いかもしれないけど。喜多川の大きな体に、ぎゅっと抱きついてしまった。体に伝わってくる汗ばんた体温が、やけに心地よく感じる。
「さっ、西園寺くんっ////」
「なぁに、春臣?」
しれっとしながら名前を呼んでやった。普段、呼び慣れていないものだから、結構ドキドキするな。
「ひっ!? あのそのえっと離れてくれないと、何も出来ない、かも……しれない」
「ねぇ、僕のこと名前で呼んでみてよ」
目の前にある喜多川の首筋を狙って、ちゅってしてあげた。それに応えるように、身体を震わせつつ、らしくないくらい顔を赤くさせながら。
「け、圭……スキだよ(〃д〃)ボソッ」
それはそれは、小さな声で告げてくれたんだ。
「キャハ━━━━(#゚ロ゚#)━━━━ッ!!」
自分から強請ったとはいえ、喜多川の口から名前を告げられただけじゃなく、スキって言葉が出てくるとは!
抱きしめていた腕をぱっと離して、呼吸を整えるべく背中を向ける。胸に手を当ててから、深呼吸を数回……すーはーすーはー。
「唐突の名前呼びは、心臓に悪いでしょ?」
「お前の場合、それだけじゃないだろうよ! あ~もぅ、バクバクが止まんない」
「でも言いたかったんだ。言ったら西園寺くん、喜ぶと思って」
「確かに嬉しいけど、でもな――」
キュッと靴音を立てながら振り返ってみたら、ほんのり顔を赤くさせ、じっと僕を見つめる喜多川の瞳と、ばっちりぶつかった。
「王領寺が俺のキモチ、教えてくれてさ」
「先輩が?」
「うん……正直、西園寺くんのスキと俺のスキは、意味が違うんじゃないかって、考えるところがあって」
「何でそんなこと、先輩に訊ねたりしたんだ?」
同じクラスメートでも先輩と喜多川じゃ人種が違うから、仲良くしていなかったハズなのに。
腰に手を当てて、背の高い喜多川を見上げると、ひっ!? と変な声を出し、視線をあらぬ方に向けた。コイツの行動は、分からないことだらけだな――
「どうした、喜多川?」
「ええっと、あのね王領寺に他にも、訊ねたいことがあってさ。そしたらついでに、俺のキモチを汲んで、いろいろ教えてもらえたんだよ。西園寺くんが大事すぎて見えなくて、アレコレ考えまくった結果、ワケが分からなくなっただけだったんだ」
下がってもいないメガネを何度も弄って、身振り手振りで説明してくれたんだけど実際、よく分からない。
「ホントは、僕が教えてあげたかったのに」
「やっ、ゴメンね。西園寺くんに大キライって言われたのと、スキって言われた衝撃波が同じで、頭の中がすっごくごちゃ混ぜになってしまって」
言いながら、何故か涙ぐむ始末。
――おいおい、これって僕が泣かせたことになる?
「あのさ、スキなヤツを泣かせたくないんだけど」
「ごめっ……西園寺くんがいちいち胸に響くこと、言ってくれるものだから、つい」
ずるずると鼻をすすりながら、笑いかけてくれる喜多川。そんなことをするから、お前から目が離せないのにな。
「言ってないって。んもぅ、泣いてくれるな!」
「言ってるってば。スキって……」
「だって喜多川がスキなんだ、しょうがないだろ」
「何度も言ってほしくないよ、心臓に悪いから」
何でこんなことで、僕らは言い合いしているんだ?
唇を尖らせて喜多川を見たら突然、両肩に手を置いてぎゅっと抱きしめてくる。
「分かってるから、圭のキモチ。伝わってるから」
「う、うん」
このままずっと、寄り添いあえたらいいな――喜多川の背中に両腕を回して、同じように抱きしめ返してあげた。
「喜多川って、こんなに身体が大きかったっけ?」
「西園寺くんこそ、見た目よりも小さいね」
「なんだよ、それ……」
「だって……腰を曲げないと、その……キス出来なかったから」
――それって、面倒だって言いたいのか?
「だったら今度は、背伸びしてやるから、お前は黙ってそこにいればいいだろ」
体に回していた腕を解き、喜多川の胸元を掴んで、えいやっと背伸びしてやった。
「だっ、ダメだよ! 順番が狂ってしまうから////」
「順番って、一体何だよ?」
「えっとね、西園寺くんが感動するようなシチュエーションを、俺なりに考えてみたんだ」
「感動、ねぇ……」
喜多川の言葉に呆れて、身体から手を離す。
「うん……ちょっとだけ、待っていてくれない? 復習したいから」
「復習?」
何だよ、復習って。シュミレーションの事か?
もじもじしながら両手の人差し指をいそいそ絡めて、顔を赤くさせながら、僕の顔を見つめる喜多川。
「その指は、願掛けか?」
やっぱりコイツの考えてることが、さーっぱり分らない。
「あー……そんなトコ。じゃあ西園寺くん、はじめるよ」
はじめるといった傍から、屈みこんで膝裏に腕を通し、いきなり僕のことを横抱きにした。
「おっ、おい! 何をはじめるんだよ!?」
その不安定さに、喜多川の首に両手をかけたら嬉しそうに笑って、外を見てごらんって楽し気に告げる。
「あ……」
さっき見た景色とおんなじ風景なのに、喜多川と同じ目線だと全然、見え方が違うじゃないか。
「喜多川って、いっつもこんな感じで、周りを見ているんだ?」
「見慣れてしまっているから、どうかなって思ったんだけど、西園寺くんに見せたら感動するかもって考えたんだ」
「超かんどーした!」
「……ねぇ、これから西園寺くんが強請ってること、してもいいかな?」
薄っすらと頬を染めて、視線を逸らしながら言ってきた。喜多川と顔が近いので、それをするには、打ってつけだと思われ――
「いいよ、いつでも」
ドキドキしながら伝えたら、窓辺を背後にして、そのまま僕の身体を床に横たわらせ、ゆっくりと跨る。
「ゴメンね、そのまま西園寺くんを、床に直置きしちゃて」
「別に……」
ちょっ、何だかこのまま最後までされちゃいそうな雰囲気が、あの喜多川からひしひしと、漂ってきてるんですけど!
緊張で固まる僕の頬を、両手で優しく包み込むと、ゆっくり唇を重ねた。すぐに入り込んできた舌が、逃げないように絡められ、呼吸ごときゅっと吸い上げられる。
「ンンッ…ぁ、あぁっ」
ちょっ、何これ!? すっごく、ぞくぞくさせられているよ!
「西園寺くん……もっと感じて」
一瞬だけ唇を離し嬉しそうに告げてから、角度を変えて僕を再び責めたててくれる。律儀にこんなときに、苗字で呼ぶなんて、喜多川らしいなと思いつつも、どんどんそんな余裕がなくなってきた。
「はぁ、んぁあっ…や、っ、んんっ!」
淫らに声をあげる自分が恥ずかしくなり、顔を横に背けると、首筋に唇を這わせた喜多川。もしかしてだけど、僕が声をあげるのを見越して、防音設備の整った音楽室に呼び出したのか!?
首筋をなぞる喜多川の唇が止り、ちゅっとそこを吸った。
「あぁ、あっ……きた、がわ…」
――どうしよう、最後までヤる気なんだろうか。
確かに僕をあげるとは言ったけど、一気にそこまでいくとは思っていなかったから、心の準備が出来てないよ。
ちゅー……
「んぅ……喜多川っ////」
ちゅー……
「……喜多川っ?」
さっきから、ワイシャツの襟元の傍をちゅーっと吸ったきり、微動だに動こうとしない。
「喜多川、あの……」
「あ、キスマークついちゃった。ゴメンね、西園寺くん」
こんだけ吸っていたら、ハッキリとついただろうな。
「別にいいよ。喜多川のだって印がついたみたいで、すっごく嬉しいし」
「あのね、西園寺くん」
「さっきから、なに不安そうな顔してるんだよ?」
「ここから先、どうしたらいい?」
ド━━━(゚ロ゚;)━━ン!!
ナニ、イッテンダコイツ……
「おいおい、あんなベロチューしておいて、その言葉はおかしいんじゃないか?」
思いっきり感じさせられて、翻弄されまくったというのに。
「あの、あれは王領寺に教えてもらったお陰で、習得したというか何というか」
「先輩とベロチューして、教えてもらったのか!?」
「ちがっ! 言葉とかその……指を使って表現してアレコレ、教えてもらっただけだよ」
そうだよ、昨日喜多川にキスしたとき、舌を差し込んだら、驚いて飛び上がったんだった。それなのに、いきなりすげぇワザを繰り出せたのは、先輩のお陰だったのか――
「あのさ喜多川、僕は今、誰と付き合ってるんだっけ?」
起き上がりながら、バツの悪い顔をした喜多川を見る。僕に跨っていた足を抱きしめて、それはそれは小さくなった。
「あの……俺……」
「なのにどうして、大事なところを先輩に頼るんだ? おかしいだろ、それって!」
「……だって王領寺は、西園寺くんがスキになった人だから。だから何か得られるものが、あるかなぁって思って」
上目遣いで窺うように見てから、ぱっと視線を逸らす。
呆れた――僕のキモチが、全然伝わっていないじゃないか!
「あ~もぅ、喜多川 春臣っ!」
「はは、はいっ!?」
制服のネクタイを力任せに引っ張り、背けていた顔を自分に引き寄せてやる。
「よぉく聞いておけよ! 先輩との恋は、マヤカシみたいなものだったんだ。お前に対するキモチに比べたら、全然違うんだよ」
「西園寺くん……」
驚く喜多川のネクタイを手放し、自分のネクタイに手をかけて素早く解くと、ワイシャツのボタンをばばっと外していった。
「いいか、喜多川」
僕の突飛な行動を目の当たりにしてビビり気味になり、逃げかけようとした体を引き止めるべく、左手を掴んでやる。そのまま自分の胸の辺りに、押し当ててみた。
「ひゃっ////」
「何でお前が、変な声を出すんだよ?」
「だって西園寺くんの肌、すごく白くてすべすべで」
「そこじゃなく……僕のドキドキを、直に感じてほしいんだけど」
さっきからどうして、僕らの会話は噛み合わないんだろう。喜多川のヤツ、真面目なのか不真面目なのか、全然分からない。
「ゴメンね。ムダにドキドキしちゃって、何か……その。あ、西園寺くんもおんなじだね」
「そうだよ、喜多川のことがスキなんだから当然だろ。だから自分の力で調べて、感じさせてくれよ。こうやって僕のことに触れられるの、喜多川だけなんだからな」
「分かった。頑張ってみるね////」
真っ赤な顔して告げた喜多川を、僕は信じたい。だってそれを、有言実行してくれるヤツだって、昔から知っているから――
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