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Always With You:真実の恋④

***  放課後、喜多川に呼び出された場所は、3階にある音楽室だった。約束の時間より、少し早めに到着したので、喜多川はまだ来ていない。  ピアノと備え付け椅子以外、何もないトコなので、しょうがなく、その椅子に腰かけた。背後にある窓からの景色をぼんやり眺めると、真っ赤な夕日が町並みを照らしていて、キレイなその様子に目を奪われてしまう。 「僕らの教室と1階違うだけなのに、随分といい景色が、ここから拝めるんだな」  次回の個展に出す美術部の絵を、ここで描いちゃおうかなぁと考えていたときだった。 「悪いっ、待たせた?」  息を切らした喜多川が、扉を開け放ちながら登場した姿に、ドキンと胸が高鳴る。その衝動に思わず立ち上がったら、座っていた椅子が、音を立てて引っくり返ってしまった。 「うわっ!?」 「大丈夫かい、西園寺くん?」 「あ、大丈夫。喜多川がいきなり入ってきたから、驚いちゃって」  あたふたしながら椅子を元に戻すと、扉を施錠した喜多川が、ゆっくりした足どりで、こっちに来てくれる。  どうしよう……何かムダに、緊張してるんですけど! 「西園寺くん、こっち」  僕の左袖をくいくいっと引っ張って、扉から遠いところに連れて行く。 「どうしたんだ、喜多川?」 「いやぁ、そのぅ……ちょっとしたアクシデントで、西園寺くんと付き合ってること、クラスメートにバレちゃって、追いかけられてしまったんだ」 「僕は別に、バレるのは構わないけど大変そうだな」  クラスメートに追いかけられたから、走ってまいて来たのか。頬っぺたが、すっごく真っ赤になってる。 「西園寺くんの人気は、すごいね。こんなことになるとは、思いもしなかったよ」 「僕は……喜多川だけに想われていたい」  走った後で、熱いかもしれないけど。喜多川の大きな体に、ぎゅっと抱きついてしまった。体に伝わってくる汗ばんた体温が、やけに心地よく感じる。 「さっ、西園寺くんっ////」 「なぁに、春臣?」  しれっとしながら名前を呼んでやった。普段、呼び慣れていないものだから、結構ドキドキするな。 「ひっ!? あのそのえっと離れてくれないと、何も出来ない、かも……しれない」 「ねぇ、僕のこと名前で呼んでみてよ」  目の前にある喜多川の首筋を狙って、ちゅってしてあげた。それに応えるように、身体を震わせつつ、らしくないくらい顔を赤くさせながら。 「け、圭……スキだよ(〃д〃)ボソッ」  それはそれは、小さな声で告げてくれたんだ。 「キャハ━━━━(#゚ロ゚#)━━━━ッ!!」  自分から強請ったとはいえ、喜多川の口から名前を告げられただけじゃなく、スキって言葉が出てくるとは!  抱きしめていた腕をぱっと離して、呼吸を整えるべく背中を向ける。胸に手を当ててから、深呼吸を数回……すーはーすーはー。 「唐突の名前呼びは、心臓に悪いでしょ?」 「お前の場合、それだけじゃないだろうよ! あ~もぅ、バクバクが止まんない」 「でも言いたかったんだ。言ったら西園寺くん、喜ぶと思って」 「確かに嬉しいけど、でもな――」  キュッと靴音を立てながら振り返ってみたら、ほんのり顔を赤くさせ、じっと僕を見つめる喜多川の瞳と、ばっちりぶつかった。 「王領寺が俺のキモチ、教えてくれてさ」 「先輩が?」 「うん……正直、西園寺くんのスキと俺のスキは、意味が違うんじゃないかって、考えるところがあって」 「何でそんなこと、先輩に訊ねたりしたんだ?」  同じクラスメートでも先輩と喜多川じゃ人種が違うから、仲良くしていなかったハズなのに。  腰に手を当てて、背の高い喜多川を見上げると、ひっ!? と変な声を出し、視線をあらぬ方に向けた。コイツの行動は、分からないことだらけだな―― 「どうした、喜多川?」 「ええっと、あのね王領寺に他にも、訊ねたいことがあってさ。そしたらついでに、俺のキモチを汲んで、いろいろ教えてもらえたんだよ。西園寺くんが大事すぎて見えなくて、アレコレ考えまくった結果、ワケが分からなくなっただけだったんだ」  下がってもいないメガネを何度も弄って、身振り手振りで説明してくれたんだけど実際、よく分からない。 「ホントは、僕が教えてあげたかったのに」 「やっ、ゴメンね。西園寺くんに大キライって言われたのと、スキって言われた衝撃波が同じで、頭の中がすっごくごちゃ混ぜになってしまって」  言いながら、何故か涙ぐむ始末。  ――おいおい、これって僕が泣かせたことになる? 「あのさ、スキなヤツを泣かせたくないんだけど」 「ごめっ……西園寺くんがいちいち胸に響くこと、言ってくれるものだから、つい」  ずるずると鼻をすすりながら、笑いかけてくれる喜多川。そんなことをするから、お前から目が離せないのにな。 「言ってないって。んもぅ、泣いてくれるな!」 「言ってるってば。スキって……」 「だって喜多川がスキなんだ、しょうがないだろ」 「何度も言ってほしくないよ、心臓に悪いから」  何でこんなことで、僕らは言い合いしているんだ?  唇を尖らせて喜多川を見たら突然、両肩に手を置いてぎゅっと抱きしめてくる。 「分かってるから、圭のキモチ。伝わってるから」 「う、うん」  このままずっと、寄り添いあえたらいいな――喜多川の背中に両腕を回して、同じように抱きしめ返してあげた。 「喜多川って、こんなに身体が大きかったっけ?」 「西園寺くんこそ、見た目よりも小さいね」 「なんだよ、それ……」 「だって……腰を曲げないと、その……キス出来なかったから」  ――それって、面倒だって言いたいのか? 「だったら今度は、背伸びしてやるから、お前は黙ってそこにいればいいだろ」  体に回していた腕を解き、喜多川の胸元を掴んで、えいやっと背伸びしてやった。 「だっ、ダメだよ! 順番が狂ってしまうから////」 「順番って、一体何だよ?」 「えっとね、西園寺くんが感動するようなシチュエーションを、俺なりに考えてみたんだ」 「感動、ねぇ……」  喜多川の言葉に呆れて、身体から手を離す。 「うん……ちょっとだけ、待っていてくれない? 復習したいから」 「復習?」  何だよ、復習って。シュミレーションの事か?  もじもじしながら両手の人差し指をいそいそ絡めて、顔を赤くさせながら、僕の顔を見つめる喜多川。 「その指は、願掛けか?」  やっぱりコイツの考えてることが、さーっぱり分らない。 「あー……そんなトコ。じゃあ西園寺くん、はじめるよ」  はじめるといった傍から、屈みこんで膝裏に腕を通し、いきなり僕のことを横抱きにした。 「おっ、おい! 何をはじめるんだよ!?」  その不安定さに、喜多川の首に両手をかけたら嬉しそうに笑って、外を見てごらんって楽し気に告げる。 「あ……」  さっき見た景色とおんなじ風景なのに、喜多川と同じ目線だと全然、見え方が違うじゃないか。 「喜多川って、いっつもこんな感じで、周りを見ているんだ?」 「見慣れてしまっているから、どうかなって思ったんだけど、西園寺くんに見せたら感動するかもって考えたんだ」 「超かんどーした!」 「……ねぇ、これから西園寺くんが強請ってること、してもいいかな?」  薄っすらと頬を染めて、視線を逸らしながら言ってきた。喜多川と顔が近いので、それをするには、打ってつけだと思われ―― 「いいよ、いつでも」  ドキドキしながら伝えたら、窓辺を背後にして、そのまま僕の身体を床に横たわらせ、ゆっくりと跨る。 「ゴメンね、そのまま西園寺くんを、床に直置きしちゃて」 「別に……」    ちょっ、何だかこのまま最後までされちゃいそうな雰囲気が、あの喜多川からひしひしと、漂ってきてるんですけど!  緊張で固まる僕の頬を、両手で優しく包み込むと、ゆっくり唇を重ねた。すぐに入り込んできた舌が、逃げないように絡められ、呼吸ごときゅっと吸い上げられる。 「ンンッ…ぁ、あぁっ」  ちょっ、何これ!? すっごく、ぞくぞくさせられているよ! 「西園寺くん……もっと感じて」  一瞬だけ唇を離し嬉しそうに告げてから、角度を変えて僕を再び責めたててくれる。律儀にこんなときに、苗字で呼ぶなんて、喜多川らしいなと思いつつも、どんどんそんな余裕がなくなってきた。 「はぁ、んぁあっ…や、っ、んんっ!」  淫らに声をあげる自分が恥ずかしくなり、顔を横に背けると、首筋に唇を這わせた喜多川。もしかしてだけど、僕が声をあげるのを見越して、防音設備の整った音楽室に呼び出したのか!?  首筋をなぞる喜多川の唇が止り、ちゅっとそこを吸った。 「あぁ、あっ……きた、がわ…」  ――どうしよう、最後までヤる気なんだろうか。  確かに僕をあげるとは言ったけど、一気にそこまでいくとは思っていなかったから、心の準備が出来てないよ。  ちゅー…… 「んぅ……喜多川っ////」  ちゅー…… 「……喜多川っ?」  さっきから、ワイシャツの襟元の傍をちゅーっと吸ったきり、微動だに動こうとしない。 「喜多川、あの……」 「あ、キスマークついちゃった。ゴメンね、西園寺くん」  こんだけ吸っていたら、ハッキリとついただろうな。 「別にいいよ。喜多川のだって印がついたみたいで、すっごく嬉しいし」 「あのね、西園寺くん」 「さっきから、なに不安そうな顔してるんだよ?」 「ここから先、どうしたらいい?」  ド━━━(゚ロ゚;)━━ン!!  ナニ、イッテンダコイツ…… 「おいおい、あんなベロチューしておいて、その言葉はおかしいんじゃないか?」  思いっきり感じさせられて、翻弄されまくったというのに。 「あの、あれは王領寺に教えてもらったお陰で、習得したというか何というか」 「先輩とベロチューして、教えてもらったのか!?」 「ちがっ! 言葉とかその……指を使って表現してアレコレ、教えてもらっただけだよ」  そうだよ、昨日喜多川にキスしたとき、舌を差し込んだら、驚いて飛び上がったんだった。それなのに、いきなりすげぇワザを繰り出せたのは、先輩のお陰だったのか―― 「あのさ喜多川、僕は今、誰と付き合ってるんだっけ?」  起き上がりながら、バツの悪い顔をした喜多川を見る。僕に跨っていた足を抱きしめて、それはそれは小さくなった。 「あの……俺……」 「なのにどうして、大事なところを先輩に頼るんだ? おかしいだろ、それって!」 「……だって王領寺は、西園寺くんがスキになった人だから。だから何か得られるものが、あるかなぁって思って」  上目遣いで窺うように見てから、ぱっと視線を逸らす。  呆れた――僕のキモチが、全然伝わっていないじゃないか! 「あ~もぅ、喜多川 春臣っ!」 「はは、はいっ!?」  制服のネクタイを力任せに引っ張り、背けていた顔を自分に引き寄せてやる。 「よぉく聞いておけよ! 先輩との恋は、マヤカシみたいなものだったんだ。お前に対するキモチに比べたら、全然違うんだよ」 「西園寺くん……」  驚く喜多川のネクタイを手放し、自分のネクタイに手をかけて素早く解くと、ワイシャツのボタンをばばっと外していった。 「いいか、喜多川」  僕の突飛な行動を目の当たりにしてビビり気味になり、逃げかけようとした体を引き止めるべく、左手を掴んでやる。そのまま自分の胸の辺りに、押し当ててみた。 「ひゃっ////」 「何でお前が、変な声を出すんだよ?」 「だって西園寺くんの肌、すごく白くてすべすべで」 「そこじゃなく……僕のドキドキを、直に感じてほしいんだけど」  さっきからどうして、僕らの会話は噛み合わないんだろう。喜多川のヤツ、真面目なのか不真面目なのか、全然分からない。 「ゴメンね。ムダにドキドキしちゃって、何か……その。あ、西園寺くんもおんなじだね」 「そうだよ、喜多川のことがスキなんだから当然だろ。だから自分の力で調べて、感じさせてくれよ。こうやって僕のことに触れられるの、喜多川だけなんだからな」 「分かった。頑張ってみるね////」  真っ赤な顔して告げた喜多川を、僕は信じたい。だってそれを、有言実行してくれるヤツだって、昔から知っているから――

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