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Always With You:真実の恋⑥
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週末、学期末テストに追われる僕のことを心配した喜多川が、勉強を教えてあげるよと言ってくれたので、超久しぶりにお宅にお邪魔した。
「いつ以来だっけ? 喜多川の部屋に入るのって」
受験勉強の邪魔しちゃ悪いと一応、気を遣ったりした。だけど僕の心配を他所に、余裕で大学を推薦で合格しちゃった、ツワモノなんだ。
「んーと……半年以上前かなぁ? あ、いつものところに座ってて。西園寺くんが来るって聞いて、母さんが張り切ってお菓子を作ったんだ。今、持ってくるから」
嬉しそうに微笑んで、ばたばたと足音を立てながら部屋を出て行った。
「……なんだかなぁ。いつも通りに戻っちゃった感じ」
音楽室での一件以来、喜多川は僕に手を出してこない。
首にキスマークをつけてしまったことで、周りから相当反感を買ったらしい。その微妙な空気を察したので、僕から喜多川に逢いに行くことがなくなった。勿論、喜多川も僕に逢いに来ない。
表面上は、距離を置いていた僕たちだったけど。
スマホの某アプリを使って、連絡を密に取り合っていた。密なんだけど、それは蜜に近いような、文面ばかりが展開され――
口にすると照れてしまうような文章を、喜多川がこれでもかと書いてくれるので、それがえらく嬉しくて堪らなかった。
「普段、そういうのを言わないから、衝撃が半端ないんだよね。喜多川ってば罪なヤツ!」
ぶつくさ言いながら用意してくれたテーブルに、教科書とノートを広げたとき、部屋に入ってくる喜多川。入ってきた瞬間、鼻がいい匂いを感知した。
「ちょっ、それってもしかして!」
「そう。西園寺くんが好きなシュークリーム。今日のは、生クリームとカスタードクリームのW攻撃だって」
喜多川のお母さんは僕が遊びに行くと、必ずお菓子を作って喜ばせてくれていた。
実の息子に振舞っても、美味しいのひとことしか言わない、リアクションが不満だそうで。(そこら辺、喜多川らしいと思うんだけど)
僕がグルメリポーターのように、いろいろ言うのが嬉しいのだそう。
「いいのか? ここで食べたら、お母さんが喜ばないんじゃ?」
「俺が正確に伝えるから、大丈夫だよ。それに……西園寺くんとふたりきりでいたいし」
押し付けるようにシュークリームを手渡しながら、すごいことを言った喜多川を、赤面して見つめるしか出来ない。
「ぁ、そう。ありがと……いただきます////」
妙にどぎまぎしてるから、味が分かるだろうか? 何だか照れくさいと思いつつ、シュークリームに口をつけた。
「西園寺くん、唇の右側の端っこに、生クリームがついちゃってるよ」
(緊張して口に突っ込んだから、付いてしまったんだろうな)
言われたところに、舌を伸ばしてみたけれど――
「全然とれてないって。しょうがないな」
呆れ顔した喜多川が、テーブル越しに僕に顔を寄せ、その部分に唇を押し付けた。そして、舌でぺろりと掬い取る。
「ちょっ、なっ!? ////」
「普通、手で拭ったりするところを、どうしてそうやって誘うように、舌を使ったのかな。西園寺くん……」
拭ってくれたところに、喜多川の舌の感触がちょっとだけ残っていて、ドキドキしてしまった。
「え、あの……面倒くさくて、つい」
「そういう可愛いことされると、どうしていいか分からなくなる」
「うわっ、喜多川っ!?」
次の瞬間、目に飛び込んできたのは部屋の天井と、憂い帯びた目をした喜多川の顔――
「シュークリームより、西園寺くんを食べたい」
――突然、何を言い出すかと思ったらコイツ。
「少しだけ、かじってもいい?」
「かっ、かじる!?」
僕のどこを、かじるというんだ?
「西園寺くんを、味わわせてほしくて、いいでしょ?」
返事をする前に、塞がれてしまった唇。触れるだけのキスを何度かしたあと、この間したような、濃厚なキスに変わっていった。
「ンンッ…ぅ、あ――」
「すごく甘いね、美味しいよ圭」
一瞬だけ僕の瞳を見つめてから、耳元で囁いてくれる低くて艶っぽいその声は、ひどく心地よくて、ぼーっとしてしまうレベル。
どうしよう、言葉が出てこない。いきなりオス化した喜多川に、何も言えないなんて。
そして気がつけば、さりげなくシャツのボタンがてきぱきと、外されてしまっているとか!
「喜多川、あの……////」
下の階に、お母さんがいるんだよ。なのに、堂々とナニかをしようとしているのか? いきなり入ってきたら、どうするんだよ……
「あのね、圭。聞いてほしくて」
「な、なに?」
少しだけ赤面した喜多川が、じっと僕を見つめてきた。
「圭の全部がほしい。今、直ぐに――」
その言葉に、否応なしに体温が上がり、心臓が滅茶苦茶に駆け出していく。
「いっ、今直ぐって、そんな」
「俺のキモチとしては、今直ぐなんだけどね。だけどゴメン、キモチと身体がついていってなくて」
形のいい眉毛が、あからさまにしょぼんとした様になり、酷く落ち込んでいるのが伝わってきた。
「喜多川?」
そっと声をかけると、かけていたメガネをゆっくりと外し、テーブルの上に置く。レンズ越しじゃない瞳は、ちょっとだけ涙目になっていた。
「どうしたんだよ、喜多川……」
逃げる視線を自分のほうに向かせるべく、両手で頬を包み込んでやる。押し倒されたのは自分なのに、今は僕のほうから喜多川を誘っているみたいだ。
「やっ、あの……圭に手を出したいのに、実際出してしまったら嫌われちゃうかもなんて、いろいろ考えちゃって……はじめてで、きごちないだろうし」
「そんなのお互い様だろ、何を言い出すのかと思ったら」
「でも……圭のイヤがることをするかもしれない。この白い肌に、キズつけるようなことをしちゃうかも。スキすぎて、手加減出来ないかもしれなくて」
言いながら首筋から胸元を人差し指で、ゆっくりとなぞっていく。
「んぁ……ああっ」
ぞくぞくした感触に、甘い声が自然と漏れた。
「気持ちイイの?」
恐るおそるといった感じで訊ねる喜多川に、笑顔を浮かべながら、こくりと頷く。
「喜多川のしてくれることだから……どんなことをされても、嫌ったりしないよ。だってスキなんだ、春臣」
「手加減出来なくて、滅茶苦茶にするかもしれないよ? それでもかまわない?」
頬に添えてる僕の手が、喜多川を引き寄せるみたいに、ぐっと顔を寄せてきた。長めの前髪が、額にふわりと触れる。それだけでも感じてしまうよ。
「大丈夫だから。思う存分、滅茶苦茶にしてみろよ」
いつも僕のことを気遣ってくれる喜多川だからこそ、このセリフなんだろうけど。もどかしさと同時に、大切にされてる想いが、ひしひしと伝わってきた。
「後悔しても知らないよ。止めないから……」
さっきまで浮かべていた不安げな表情が消え、口元に笑みを浮かべた喜多川が、僕の唇に噛み付くようなキスをし、肌に触れていた手が、いきなり下半身に伸ばされ――
「!! ////」
「俺のキスで感じてくれたの? この間よりもお――」
「ちょっ、そんなこと、言うなよ。わざわざっ////」
「だって……嬉しくって。もっと感じさせてあげるね」
魅惑的に微笑み、僕のを掴んだ喜多川の手にぎゅっと力が入ったとき、階下から階段を上る音が、耳に聞こえてきた。
「き、喜多川……」
息を飲んで、見つめ合うこと数秒。
その後、慌てて起き上がってマッハで、シャツのボタンを留めにかかり、そんな僕の髪型を、喜多川が整えるように撫でてくれる。
「僕のことはいいから、お前離れろって。それと、前を何かで隠せよ!」
己を主張しまくっている、喜多川の下半身を指差した。
丈の長いシャツを着てる自分とは真逆の、喜多川の服装をずばりと指摘してやると、急いでテーブルの向かい側に移動し、両膝を抱えて体育座りをした。
「これで大丈夫?」
「いやいや。テーブルを前にして、その姿勢は可笑しいから絶対に……」
コンコンとノックの音が、部屋に響く。
うわぁと頭を抱え、キョロキョロして、隠せそうなブツを探した。目に留まったのは、ベッドの上にあったクッション!
「西園寺くん……」
困り果てた声を出した喜多川に体を反転させ、それを引っ掴み、ぽいっと放り投げた。
「はーいっ、どうぞ!」
僕が大きな声でノックをした相手に返事をすると、喜多川のお母さんが、そっと顔を覗かせた。
「お茶のお代わり、いかがかしら?」
妙に姿勢のいい僕らを眺めながら、ニッコリと微笑む。
「いやぁ、シュークリームが美味しすぎて、お茶にまだ、手をつけてないんですよぅ」
あたふたしつつ、シュークリームに手を伸ばし、ハムッと口に放り込む。
「西園寺くん、またクリームが口の端についたよ」
「いいじゃん、あとで取るから」
「この調子で食べてるからさ……お茶のお代わり、俺が淹れるから」
「そう、分かったわ。ゆっくりしていってね西園寺くん」
僕が美味しそうに食べてる様子を見て満足したのか、そそくさと出て行った喜多川のお母さん。階段を下りる音を最後まで聞いてから、ふたりしてテーブルに突っ伏してしまった。
「クッションありがと、西園寺くん」
「ビックリした……ハラハラしすぎて、シュークリームの味、全然分からなかった」
テーブルの上で視線を合わせたら、どちらともなくクスクスと笑いが零れる。
「西園寺くんには悪いけど、結構スリルを楽しんじゃった」
「何言ってんだよ、ホント。信じられない……」
「や、だってさ。西園寺くん手際よくテキパキしちゃって、俺の方がムダにあたふたしまくりで。どっちが年上か分からないなって思ったら、可笑しくって。だけど――」
ふっと真剣になった喜多川の表情に、どぎまぎして顔を上げたら突然、口の端をぺろりと舐められる。
「ぉわっ! ////」
「今度スルときは、俺がリードするから。いっぱい感じてね、圭」
散々感じさせられているというのに、堂々と宣言をした喜多川を、複雑な心境で見つめるしか出来なかった。
というか、今度っていつだろう――?
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