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男子高校生 西園寺圭の真実の恋番外編 ~雨~

「好きこのんで、こんな場所に来たんじゃないのに、何で俺が面倒くさいことをしなきゃならないんだ、くそっ!」  第一志望の共学の高校を落ちて、仕方なくこの男子高に通うことにした俺は現在、全校生徒が集まる、体育館の隅っこに控えていた。  入試の成績が一番良かった者がするという、学年代表の挨拶のため――  両親ならびに親戚一同、医者や弁護士、官僚等などステイタスの高い職に就いている。それは無言の圧力で、そっちの道に行きなさいと、示されているワケで。 「失敗は、許されなかったはずなのに……」  入試の前日、風邪を引いてしまった。健康管理だって勉強のうちだと、しっかりしていたのにも関わらず、高熱の出る風邪を何故か引いてしまい当日、寒気と頭痛を抱えながら試験に挑んだ結果、見事に落ちてしまったのだった。 『風邪を引こうが、実力を出せなかったお前が悪い』  蔑んだ目で見つめる父親に弁解できず、両手の拳を握りしめ、悔しい気持ちをやり過ごすのにいっぱい、いっぱいで――  一浪してでも入りたかったのに、それすら許されず、この男子高に来てしまった。 「イヤイヤで来てやってるのに挨拶しろとか、ちゃんと出来るワケないだろうよ……」  ぽつりと呟いたとき、くいくいっと袖を引っ張られたので横を向くと、頭ひとつ分小さい女子が俺を、じーっと見ているのに少し驚いてしまう。  あ、あれ? おかしいな――ここは男子校なのに、どうして女子がいるんだ?  小さい顔に白い肌、長いまつげの下にくりっとした、大きな瞳が食い入るように見つめていて、ふわふわした茶色い髪の毛がすごく柔らかそうに見えた。  ネクタイの色を確認したら2年生、先輩になるんだ。女子が男装した先輩だったりして。  頭の中で、その先輩の感想を述べているとニッコリ微笑み、口を開いてくれる。 「お前、学年代表なんだろ? 緊張しまくって、そんな変な顔してるとか?」  話しかけてきた声は、しっかり男だった先輩――すごいすごい、こんなキレイな男がいるんだ。ビックリした…… 「いえ。別に緊張なんてしてないですけど」 「ふぅん、そうなんだ。余裕あるんだ、1年のクセに」  その言葉にメガネを意味なく上げて、顔を横に背けてやる。学年が上がり後輩が出来たことで早速、先輩風を吹かせに来たってところだろう。 「先輩こそ、こんなところで何をしているんですか?」  校長の話が終わったら、俺の出番――緊張してるだろうと言われたせいで若干、意識してしまったじゃないか。 「ステージの装飾、僕が入ってる美術部がやったんだよ。どうだ、すごいだろ?」 「ええ、そうですね。すごいすごい」 「お前、可愛くないな。感情全然こもっていないじゃないか」  わざわざ耳たぶを引っ張りながら、文句を言ってくれる。容赦ない先輩だ、イテテ。 「それ、俺の質問に答えてませんけど」 「ステージの装飾に手間を取られて、これ出来上がったの、さっきでさ。終わったらお前にその飾りやるよ、学年代表」  ひょいと手渡されたのは、マイクだった。それはだたのマイクじゃなく、マイクに、キレイな装飾が施されていて―― 「少しでも、緊張が解れるといいな。ま、頑張れよ!」  背中をバシンと叩き、足早に去って行った先輩。再び、マイクに視線を移す。  あの人が作ったであろう、手作りの桜の枝と花が、艶やかにマイクを覆っていて、その造花をまとめる黄色いリボンが桜の色の邪魔にならないよう、小さく結ばれていた。 「緊張なんて、全然していないのに……」  すっかり魅了されてしまった――手にしてるこれじゃなく、先輩の姿に――  まさか同性に恋をするとは思わなかった、御堂 司、15歳の春だった。

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