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男子高校生 西園寺圭の真実の恋番外編 ~雨~③

***  学校から帰宅して自室で宿題をしていたら、傍に置いてあったスマホが軽やかなメロディを奏でた。 「叔父さんからだ……」  電話の相手が大好きな人だったので、喜び勇んで通話ボタンを押す。  御堂の親戚で、唯一気を許せる相手だった。他の親戚は、上から目線で物を言ってきたり、今回の受験の失敗の時なんて、労いの言葉ひとつかけてもらえなかった。なのにこの叔父さん――父の弟であるこの人は。 『お前らしいといえば、そうだなぁ。受験という大事な時期に風邪を引くとか、どことなく兄貴に似てるトコあるぞ。マジでバカだ。アハハ』  なぁんて言ってくれて、大笑いしてくれたのだ。変に気を遣われることなく、こうやって笑い飛ばされたお陰で、自分のキモチが助けられたのはいうまでもない。小児科医をしている叔父さんならではの、助け舟だったのかもしれないな。 「もしもし」 『もしもし! 新しい学校はどうだ? 男子校だったっけ?』 「そうだよ。叔父さんこそ、今はどこにいるのさ?」  弁護士をしているお父さんの力をたまに借りたりすることを、病院内でしているらしく、毎年勤務先が変わるのだ。すぐに就職先が決まるところを見ると、医療事故じゃないみたいだけど、一体何をやらかしているのやら。 『春から北海道に異動だよ。九州から一気に飛ばされてしまった、ハハハ』 「それじゃあ、ますます叔父さんに逢えなくなるね」 『可愛いこと、言ってくれるじゃないか。涙が滲んでくるぞ。それよりも学校の方は、楽しくないのか?』  質問に答えなかったことに、早速ツッコミを入れてくれた。だって答えにくい―― 「楽しいよ、それなりにね。友達、すぐに出来たしさ」 『そのクセ、声が沈んでるぞ。何があったんだ?』 「…………」  ――言えるワケがない、恋してる相手が同性だなんて。 『ん~~~。司のことを考えてみると、苛められるようなタマじゃないし、勉強が難しくて、ついていけないような頭じゃない。友達もすぐに出来たとなると、答えはひとつだな。いいじゃないか、好きな相手が男だって』  ぽんと答えを導き出されてしまい、うぅっと言葉に詰まってしまった。つか叔父さん、自分がすげーこと言ってるの、分かってるのかな? 『分かるな~、分かる! 男のクセに、妙な色香を放ってるヤツっているんだよ。惹きつけられるよな。思い出すだけで、胸の奥が熱くなってしまうぞ』 「あ、あの……叔父さん?」 『あ、俺さ、両方いける口なんだ。ビックリしただろ。って口じゃなくて、股と言うべきなのか? アハハ』  この人は、本当に――呆れ返って、笑い出してしまいそうだ。 「……だけどその人にはさ、恋人がいるんだ。どんなに想っても、手に入らないんだよ」 『何言ってんだ、お前。恋人がいようがいなかろうが何かしなきゃ、そのまんま止まりになるぞ。俺なら迷うことなく、手を出すけどな』 「俺は、叔父さんとは違う。そんな風に、手を出す勇気が出ないんだ」  手を伸ばした途端に、あからさまな拒絶となって返ってくるだろう。あのキレイな顔で、無理と言われた日にゃ、死んでしまうかもしれない。 『頭がいい分、損してるよな。勉強漬けだったんだから、仕方ないんだろうけど。でも高校生活は、今しかないんだぜ。手が出せなくても、誰かを好きだというその気持ちを、大事にしておけよな』 「叔父さん……」 『誰かを想ってるときの自分って、前の自分と何かが違っているから、間違いなく。限りある高校生活をエンジョイしてくれ』 「えっ!? そんなこと、言われても……」 『悪い、患者さんに呼ばれたんだ。またな!』  焦る俺を尻目に、さっさと通話が終了してしまい、呆然としたまま固まってしまった。  普通は、そういうことを反対しそうなのに。自分もいける口だと言った、叔父さんらしい言葉なれど――  はーっとため息をつき、机にスマホを置く。 「限りある高校生活をエンジョイ、か……」  西園寺先輩を想いながら、楽しく過ごすことなんて出来るんだろうか? だって片想いって辛いんだ。報われないキモチを抱えたまま、発散することなく燻らせて。燻らせない為には、告白しちゃえばいいだけなんだけど。  意味なく椅子の上で膝を抱え、ぎゅっと抱きしめる。  俺は無理だ……意気地なしだから――

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