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男子高校生 西園寺圭の真実の恋番外編 ~雨~④
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「今年は去年よりも、すごいコトになっているなぁ。誰かさんのせいで」
黒縁のメガネをきらりと光らせて、マジメそうな顔した美術部の部長が挨拶すべく、開口一番に言い放った言葉。入部希望の新入生たちが、俺を含めて皆揃って、困惑の表情を浮かべた。
「さて、と。俺は部長の長屋 雄介 だ。そして――」
隣にいる人物に、ちらりと視線を飛ばすと、その人は前へ一歩踏み出し、小さな体から出したとは思えない、大きな声で口を開く。
「副部長の2年、西園寺 圭です。新入生諸君に言っておきたいことがある、よく聞いてほしい。僕目当てで入部した新入生は、即刻出て行ってほしいんだ。他の人の迷惑になるからさ」
その声色は、俺に最初に話しかけてくれたものとは違い、どこかトゲのあるような感じに聞こえ、知らないうちに緊張してしまい、体を小さくしてしまった。
「ハッキリ言っておくよ。僕には既に、決まった恋人がいる。その人意外に目移りするつもりもないし、告白されようが誘われようが、全部断るから。それに卑怯な手を使って襲ってきても、ムダだからね」
「そうそう、去年西園寺を襲った上級生が数人、返り討ちにあった挙句、自主退学してるから」
西園寺先輩の顔を呆れた様子で見つつ、言葉を繋げる部長に、嬉しそうな顔をしたのを見て、胸の奥がじんとしてしまった。
恋人がいるからムダだと言われても、好きになってしまったキモチを抑えるのは、きっと無理だ――
「そういうことなんで、とっとと諦めて、他の人にアタックしてほしい。さぁ、思いきって美術部を出て行ってよ!」
腰に手を当てて、大勢いる入部希望者を見渡す西園寺先輩。あちこちからヒソヒソ話する声が漏れ聞こえる中、俺の肩をトントン叩いてきたクラスメート。
「おい、お前はどうすんの?」
「出て行かないよ。ここで諦めたら、男が廃るっていうんだ」
「おー、すげぇな。だったら俺も居座ろうっと」
そんな話をしている最中に、ぞくぞくと教室を出て行く背中を見送った。諦めるの早いなって思いながら。
「さ~てと。スッキリしたところで、新入生に挨拶してもらおうかな。おっと、学年代表が何気にいるとか!」
気づいていただろうに、あからさまにビックリした表情を作り、指を差した。
「どうも、西園寺先輩。入学式のステージ装飾の素晴らしさに心を打たれて、入部しました。1年の御堂 司です。どうぞヨロシクお願いします」
椅子から立ち上がり微笑みを浮かべながら、しっかりと挨拶したというのに――
「へぇ、そう。でも僕の中でお前は、学年代表って名前だから。そこんトコ、ヨロシクねっと。ほら、次々に挨拶していってよ。最後になったら洒落にならないくらい、緊張しちゃうからさ」
部長を無視して、ワンマンを通す副部長に誰も文句を言わず(つか、言えない状態?)新入生歓迎会を無事に終了したのだが。
西園寺先輩との距離を縮めるのは容易じゃないことが、改めて分かったのだった。
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