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男子高校生 西園寺圭の真実の恋番外編 ~雨~⑥
入学して2ヶ月が経った――西園寺先輩とは、まーったく進展がない。俺の呼び名も、相変わらず『学年代表』のままだ。
(少しでもいいから接点を増やして、何とか距離を縮め、先輩後輩の壁をこれでもかと、ぶち壊してやる!)
その熱意を胸に美術部に足繁く通って、小さなことでも構わずに質問しまくったり、そりゃあもう必死になって、話しかけたりしたんだ。出会い頭の接点のお陰で、他の新入部員より可愛がってもらってる。と自分なりに思う……
しかしながらその可愛がり方が、若干違う気がするんだけど――
「いーよな。御堂ってば、西園寺先輩のパシリが出来て」
「そーそー。俺らならありえねぇもん。頭を撫でられたと思ったら、振りかぶって叩かれるとか」
「先輩の犬と化してるよな」
などなど、友人からかけられる賞賛の声に、落ち込むことなく胸を張ってやるんだ。
「パシリだろうが犬だろうが、西園寺先輩のお役に立てるのなら、俺は何だってやるし」
「西園寺の役だけじゃなく、俺の役にも立てよ」
俺の話を聞いた美術部の3年生が、声をかけてきた。固まる俺たち1年新入部員たち。
「御堂のその姿を見てたら、思い出すわ。昨年その役を喜んで買って出ていた、喜多川先輩の姿をさ」
「喜多川先輩?」
聞き慣れない苗字に、新入部員同士で顔を見合わせた。
「西園寺の幼馴染で、ナイトなお人なんだ。スポーツ万能に成績優秀でイケメンっていう、3拍子揃った先輩でさ。そんな人が、西園寺に跪いていたんだよ。よって誰も、手を出せなかったというワケ。まさに、美男美女って感じだったなぁ。ああ、美女はダメか。アハハ」
先輩は可笑しそうに笑っていたせいで、周りにいるヤツラは合わせるように笑みを浮かべていたが、俺は笑うことが出来なかった。
喜多川先輩――どんなヤツなんだろう? 自分には、太刀打ち出来ないヤツなんだろうか?
思いがけないところからもたらされた情報に、胸をジリジリ焦がしたその日、当の本人に逢うことになろうとは思いもしなかった。
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