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遠い喫煙室 2

――なんて考えていたら、到着してから既に10分が経とうとしていた。 まずい、これ以上デスクを空けると部長に怒られる。 「あの…望月くん…?」 意を決した僕は喫煙室にの外側の、彼から一番遠い場所の窓をコツコツと叩く。 …が、これで出てきてくれたことは無い。 (うん。わかってた、わかってたけどぉ……) うう、と硝子に項垂れかかる。 わかってて毎回同じ事を繰り返すのは、単純に中に入りたくないから。 煙草のにおい、好きじゃないし。 何より、彼と密閉空間で二人きりとか怖くて倒れそうになるし。 「望月くーん…」 何度か窓を叩いていると、それに気付いた彼はあからさまに眉を寄せ、顎で「入ってこい」と示した。 これで出てきてくれないかな、という淡い期待は脆くも崩れ去る。 (…わかってたけど。毎回こうだけど) 「うぅ…し、失礼します」 僕はびくびくしながら喫煙室に入った。 「……」 彼は煙草を吸いながら、無言で僕の方に向かう。 彼は僕よりだいぶ背が高いので、近寄ると見下ろされる形になる。 その威圧感が凄くて、僕はいつも下を向いてしまうのだ。 「オイ、顔上げろ」 「は、はい…」 上からチッと舌打ちをする音がして、ぼくは恐る恐る顔をあげた。 「アンタ、毎日毎日飽きねーの?」 「……へ?」 「こんなとこ何回も来て、俺連れ戻してよ」 「えっ…ええっと、…だ、…だって僕…きみの、教育がか―」 「聞こえねぇよ!」 僕が最後まで言う前に、彼はそう怒鳴ると傍にあった灰皿の筒をガン!と蹴る。 「ひいっ!?」 「アンタ声ちっせーんだよ!もっと声張り上げろ!」 「はは、はいぃ…」 「どもってんじゃねーよ!」 「ごめんなさい!!」 再びガン!と蹴られ僕は咄嗟に謝った。 (怖いよぉぉぉ…) なんでこんなに怒ってるんだよこの人…!? 僕が何したっていうんだ! っていうか、備品蹴っちゃダメだからね!? なんて、言えるはずもなく僕は半泣きで彼を見上げる。 「はぁーー…男が泣くんじゃねーよ…ったく」 「も、望月くん…仕事…」 「わぁーったよ。戻りゃいいんだろ!…っとにめんどくせーヤツだな」 望月くんはぶつぶつ言いながら煙草の火を消す。 それを見て僕はホッと胸を撫で下ろした。 (今日は短かった…) 今日は、というより最近は。 最初の頃に比べるとだいぶすんなり戻ってくれるようになった……気がする。多分。 抜け出す頻度は変わらないけど。

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