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彼の正体
「アルにはここ2年間以前の記憶がないんです…」
残念そうに星野さんはそう言った。
「…え…」
あまりのことに言葉を失った。
でも確かにそうだ…さっきはアルが銀なんだって言ううれしさが勝って考えが及ばなかったけど、俺にこんな態度なのとか、あまりにも性格が違うのもそうじゃないと説明がつかない…
「……ッ!!」
思わず振り向くとアルが気持ちよさそうに眠ってた。
こんなに銀そっくりなのに銀じゃないなんて…
腹に回るアルの…銀の手を握ると暖かくて涙が滲んだ。そんな俺に星野さんが申し訳なさそうに続ける。
「…これは…私もアルと…頬付さんと出会う前の話なので良くは知りませんが…」
「………」
そういって星野さんが教えてくれたのは俺がずっと知りたかった5年間の銀の消息だった。
銀は5年前の連絡が取れなくなったその日の朝、空港に向かう途中に事故に遭ったらしかった。相手の信号無視で一命は取り留めたもののひどく頭を打ってしまったらしくその後3年も眠っていたらしい。
「……3年…」
「…はい…目が覚めてからも頬付さんはボーっとしてしばらく誰とも何も話さなかったそうです…」
そこでふと、今朝横で寝ていたこいつを起こそうとしたときに見た傷を思い出した。きっとあの傷はその事故の傷なんだろう。
「その間ずっとお兄さんが付きっきりだったらしく、おかげで徐々に心身共に回復はしたらしいんですが…その過程で記憶がないことが分かりまして…」
「………」
金さんだ…
なんで俺に教えてくれなかったんだろうと思ったけれど口をつぐんで星野さんの話を聞いた。
「私と彼が出会ったのは半年ほど前です。お兄さんがうちの会社の社長と知り合いだったようで、お兄さんの紹介で社長と会ったところ社長が彼のことを気に入りまして、うちで働くことになりました。それで私が担当に…」
「………」
きゅうっと胸が苦しくなった、銀の目が覚めてすぐに…いや、事故に遭ってすぐに会えていれば思い出してくれたかもしれないのに…
「…金さん……その、お兄さんは今どうしてるんですか…?」
「…あぁ、お兄さんともお知り合いなんですね。私も良くは知りませんがアルがうちで働くことになったと同時に彼もうちに入社したみたいです。なんか彼も社長のお気に入りなので来たい時にしか来てないようですが…」
「………」
はぁ…と思わずため息が出た、銀がつらい時にそばにいてやれなかったことへの後悔や、教えてくれなかった金さんへの怒りが渦巻いていて自分でも自分の気持ちがよくわからなかった。
銀は俺を覚えてないんだ…
さっきから握っていた銀の手には指輪ははめられていなかった。記憶がないんだから指輪のことだって忘れてるんだろう。
……銀…
「……ん?んん?」
「!!」
その時背中にかかってた重みがモゾっと動いた。丁度アルが目を覚ましたらしかった。
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