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転職…?
「じゃあ…明日の朝10時ごろに私の名刺の裏に書いてる事務所の場所までいらしてください。」
「…わかりました。」
今現在アルが住んでいるらしい高層マンションの下で星野さんに再度名刺を見せられそう言われた。
あのあと悩みに悩んだ星野さんが事務所に連絡した結果、俺は明日急遽カメリア芸能事務所の社長さんと会って採用面接を受けることになった。アルの飼いたい発言を聞いた社長さんが『じゃあもう雇っちゃえば?』って言ったことで雇用という話になったらしい…
「アルが気に入ってるってことで社長も乗り気でしたし、一往芸能事務所ということもあるので儀式的に面接は行いますがそんな硬いものではないと思うので気軽な感じでいらしてくださいね…」
「は…はい…」
そんなこと言われたって緊張はするけれどもなんだか急に大変なことになってしまった。
明日…有給とるか…ていうかそれ以前にもし採用になったら仕事どうすんだ…
さっきまでの銀の記憶を取り戻してみせると盛り上がっていた気持ちが落ち着いて、一度冷静になってみると現実的なところがいろいろ見えてきてなんだか頭が痛くなって来た…
つい24時間ぐらい前まで俺、銀なんて忘れてやるって息巻いてたのにな…
ちらっと星野さんの後ろに視線をやると猫背のアルがそわそわしていた。
「ねぇ、飼っていいことになったの?」
「アル、その飼うって言い方やめなってば…明日社長が面接してそれ次第だよ…」
「今日は?今日はどうすんの?」
「杉田さんだって家があるんだから帰るに決まってるだろ」
「……ゴミ捨て場に…?」
「いつまでいってるんだ…」
アルは俺が今日は帰るという言葉を聞いて少し残念そうにしていて、なんだかちょっと嬉しかった。
俺が…俺が記憶を戻して見せるから…
まだまだ問題は山積みだったけれどそう強く思った。
「……じゃあ、またね杉田さん」
「う…うん、また、ね」
なんだかこうやって銀の声で話しかけられる感覚にまだ慣れなくてぎこちなく返事をして手を振り返す。アルの茶色い目で見つめられるとドキドキした。
「じゃあ…今日はとりあえずご自宅までお送りしますね。アル、ほら後でもう一回来るから部屋で待ってて」
「あ、大丈夫です、一人で帰れます」
「……そうですか…?」
流石に申し訳なくなってそういうと星野さんはやっぱりありがたかったのか少しホッとしたような顔をした。なんとなく久々に再開した銀と離れがたい気持ちになったけれど仕方がない。再度眠たそうな顔のアルを眺めて待っててねと心の中で呟いた。
「それじゃあ…今日はありがとうございました。」
「あ、いえ、こちらこそありがとうございました。明日はよろしくお願いします。」
これが俺と銀の5年ぶりの再会だった。
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