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採用理由:かわいい

「し、失礼します!!」 頭を下げ挨拶をして部屋に入るとそこは面接室というよりはどちらかといえば応接室といった感じだった。今俺が入ってきたドアの向かいの壁が一面ガラス張りで外を一望できるようになっている。その窓の手前に高級そうなデスクが置かれ、さらに手前に背の低い机があってそれを挟むようにソファが置かれていた。 応接室というよりももしかしたら社長室なのかもしれない… そう思うと余計緊張してきた。 机を挟んで置かれたソファには真っ赤な胸元の開いた細身なドレスを来たセクシーな感じの美人な女の人が長い足を組んで座っていた。そのソファの後ろには長身でこれまた美形なスーツ姿の男の人が立っている。 …ど、ドレス…? なんだか思っていた光景とは違いすぎて体が固まってしまった。赤いドレスの女の人は俺と目が合うとニコッと笑った。厚い唇と口元のホクロがやはり色っぽかった。 「社長、山田さん、こちら昨日お話しした杉田さんです。杉田さんこちらへどうぞ。」 「えっ?あっ、失礼します…」 後から部屋に入ってきた星野さんに促されて女の人が座ってる向かいのソファにすわらせられる。多分社長と思われる女の人と山田さんと呼ばれた男の人にニコニコした顔を向けられてなんだかいづらい… なんかこう…もっとおじさんとかが出て来ると思ってたんだけどな… ドキドキしながらもみんなにこにこするだけで誰も話さないので恐る恐る口を開いた。 「あ、の…えっと…す、杉田学です。23歳で現在は商社に勤務しています。よ、よろしくお願い致します。」 「………」 座ったまま頭を下げるけどその後もやっぱり誰も何も言わなかった。 き、気まずい… 星野さんが何か助けてくれないかと思いちらっと視線を送ったけれど星野さんは俺に頑張って!!みたいな表情を向けるだけで特に助けは得られなかった。社長と思わしき人物は俺を頭の先から足の先までじーっと見回すとやっとふーんと声を出した。そこでやっと口が開かれる。 「あなた、性行為の経験は豊富?」 「…へ…?」 突然聞かれた質問の意味を理解できなくて硬直する。 「だからセックスの経験は豊富?」 「…ッセ…!!」 やっと意味を理解すると今度はかぁっとかおがあつくなるのを感じた。きっと今の俺の顔は真っ赤なんだろう、ソファの後ろで立ってる男の人がふふっと笑うのが見えた。 「で、どうなの?」 「え、えっと…」 女の人に急かされる。 これが俗にいうセクハラなんだろうか…まさか自分が受けることになるとは思わなかった…でも今はなんとかこの質問を切り抜けるしかない、これが銀の記憶を戻すための第一の試練なんだ… 「ほ、豊富…とはいえないと思います…」 「経験人数は何人?」 「………の、望んだ相手とは…二人です…」 「…ふーん…そう…テクニックには自信がある?」 「ッ!!…………あ…あまりない…です…」 「……ふーん」 は…恥ずかしい… 女の人はソファに体を深く埋めて少し考えた後に再度口を開いた。 「いいんじゃない?何よりアルが気に入ってるみたいだし、嘘がつけなさそうな感じで私は好きよ?かわいいし」 「かっ!?」 「私は社長がいいのでしたら異論はありません。確かに可愛いですし。」 「!?」 社長と男の人はそう言ってお互い笑い合うとこっちを向いた。 「いいわ、えーっと…学ね、学あなたうちで働きなさい。」 「!!」 「業務内容は…そうねぇ…アルの身の回りの世話とそのうちマネージャー業務も覚えてほしいわ。しばらくは和也と一緒にやってもらうから習ってちょうだい。」 「え、え…?」 「あぁ…挨拶が遅れたわ、ごめんなさいね。」 女の人は足を組み直すと長い赤茶色の髪を耳にかけた。 「カメリア芸能事務所の社長の椿(つばき)です。以後よろしくね?」 もう何が何だかよく分からなかった。

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