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いい匂い
「あー!!終わりましたね!とりあえずお疲れ様でした!」
「そうですね!星野さん、わざわざ来てもらっちゃってすみませんでした。」
「いいえそんな!これぐらいなんてことありませんよ!杉田さんが一緒に仕事をしてくれる事になって本当に感謝してるんですから!」
やっと片付いた部屋に晴れ晴れした顔で座って軍手を外す星野さんに感謝するとそう言われた。でもその顔は社交辞令でもなんでもなく本当に感謝しているように見えた。
………そんなに大変だったのかな……アルの世話…
なんだかちょっとだけ不安な気持ちになる。
「あ、アル、寝室の片付けはもう終わったよ」
「……ん…」
星野さんの声に反応してドアの方に目をやるとアルがこちらを覗いていた。相変わらずなんだか眠たいような捕らえどころない表情をしている。
俺の私物が運び込まれて見慣れない風景になってしまって落ち着かないのかアルはきょろきょろと辺りを見回したり、鼻をヒクヒクさせながら部屋に入ってきた。
昔は銀によく猫みたいだって言われたけど今はどっちかっていうと俺より銀の方が猫みたいかも…
ちょっと可愛いななんて思っていたらアルは俺の後ろに来てまた前のように俺を膝の間に納めるように座った。アルの腕がお腹のあたりに回って来て頭に顎を乗せられる。
………また…
もう抵抗する気も起きなくてはぁ…とため息をつくと正面に座っていた星野さんがあははと苦笑いした。
「それにしてもアル…本当に杉田さんのことが気に入ったんだね?」
「……ん…」
「……?」
アルは眠たくなって来たのか背中でむにゃむにゃ言って頷いた。俺は星野さんの言葉の意味がイマイチわからなくて首をかしげる。すると星野さんがそんな俺の様子に気づいて教えてくれた。
「あぁ、アルは元々人見知り…ってわけじゃないんですが、なんていうんでしょう?一見フレンドリーに接しているように見えても本当の意味では懐いていないというか…」
「…?」
「つまり普段そこまで気を許したような態度を取るのは珍しいんですよ。」
「!!」
俺も慣れて貰えるまで結構かかったのに妬けるなぁと星野さんが続けた。
……それって…俺にはなんでか珍しいぐらいに気を許してるってことだよね…?
ドキッと胸がなって体が熱くなった。ちらっと振り向いてみるとアルが薄く目を開いてこっちを見た。
………ちょっとは特別に思ってくれてるってこと……?
心の中で問いかけてみるけどアルはまた目を瞑ってしまった。それからゆっくりと口が動く。
「だって…なんか杉田さんいい匂いする…」
「「…いい匂い?」」
「……ん…」
俺と星野さんの声がかぶる。アルは小さく頷くと俺の肩に顔を埋めた。そしてすんすんと匂いを嗅いで再度口を開く。
「なんかおいしそうな匂い…」
「お、おいしそう…?」
それってどんな匂いだよと心の中でツッコミを入れる。星野さんもよくわからないみたいで『んー』と言って困ったように笑ってた。
その時、机に置かれてた星野さんのスマホが震えた。画面には『山田輝明』と表示されている。
昨日のあのイケメンな秘書さんだ…
星野さんは慌てて電話に出ると声を潜めて廊下へ出て話し始めた。
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