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同棲開始の証

「………」 「………」 星野さんが出て行ってアルと俺の2人きりで部屋に残されると、アルは初めは顔を上げてぼんやり星野さんが出て行った部屋のドアを見ていたけれどその内また俺の背中に顔を埋めてすんすんと匂いを嗅ぎだした。 別にくさいとかそういうことはないと思うけどこんなクンクンされ続けるのも恥ずかしいんだけどな… ちょっとだけ気になって自分の腕に鼻を寄せて匂いを嗅いでみるけど特に何か匂いがするとは思わなかった。 「……ね、ねぇ、そんないい匂いするの…?」 「………うん…」 なんだかまだ俺がアルになれなくてぎこちない感じで声をかけてみるとアルは首を縦に振って頷いた。 「……こことか…いい匂いする…」 「えっ?わっ!!」 アルはぐいっと俺の服の襟を後ろ向きに引っ張ってうなじのさらに下の方に鼻をくっつけた。服の中に潜り込まれるような感じになって恥ずかしい。 ………星野さんもああ言ってたし…やっぱり少しぐらいは特別に思ってくれてるんだよね…? そう思うとなんだか照れくさいような嬉しいような気持ちになった。 記憶はないけどこうやって匂いとかで俺のこと覚えてくれてるのかな…とか思ったり… そうやって嬉しい気持ちに浸ってると部屋のドアから星野さんが顔を覗かせた。 「…すいません……ちょっと急に事務所の方に戻らないといけないことができてしまって……ちょっと今から行ってきます。」 「あ、わかりました、こっちはもう終わりましたし大丈夫ですよ。むしろ最後まで手伝ってもらってしまって…本当にありがとうございました。」 慌ててアルの膝の間から出て星野さんを見送りに行くと玄関で星野さんからあるものを手渡された。 「危ない危ない、忘れるところでした。これが、ここの家の鍵です。これからは杉田さんが持っていてください。」 「………」 これで下の自動ドアも空きますからねと星野さんが説明してくれたけど3割ぐらいしか聞こえてはいなかった。鍵を見て改めて本当に夢見ていた銀との生活をスタートさせたんだと胸が熱くなった。無くさないように大切なそれをキュッと握る。部屋からついてきていたらしいアルも俺が熱心に見てるから気になったのか肩越しに覗き込んでいったけどただの鍵だとわかると首をひねっていた。 「じゃあ、慌ただしくて申し訳ないですが私はこれで失礼しますね。明日は事務所の説明なんかをするのでまた10時ごろに事務所までいらしてください。…アルも社長が久々に顔が見たいって言ってたから杉田さんと一緒に来てね、あまり杉田さんに迷惑かけたらダメだからね。」 「…あ、星野さんありがとうございました。お疲れ様です。」 星野さんは相変わらず人の良さそうな笑顔を浮かべて事務所へ戻って行った。

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