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1番の薬
「……アルは薬で寝るのはいや…?」
「………うん…」
アルが素直に頷く。俺の手をきゅっと弱い力で握り返してくるのがちょっとかわいいななんて思った。その握られた手に目をやるけどアルの指にはやっぱり指輪はない。そこを見つめたまま口を開いた。
「じゃあさ、一緒に寝てみない?」
「………エッチするの…?」
「そ、そうじゃなくて」
流石にアル自身明日は大事な仕事だと思っているからなのか、前日に性行為をするのはよくないことなんじゃないかと思ったらしく俺を見て首を傾げた。慌ててそれを訂正する。
「えっとね、ただ一緒に寝てみるだけだよ、アル多分俺が来た日よく眠れたんだよね?」
「……えっと……うん、多分」
「あの日も一緒に寝たよね?もしかしたら役に立てるんじゃないかなって思ったんだ…薬で寝るのが嫌だったら一度試して見てもいいんじゃないかなって…」
「………」
「人と一緒に眠るのってあったかいし…俺は、だけどなんとなく安心するしさ…もちろんアルが嫌じゃなかったらだけど…」
アルの手元から顔に視線を戻して『どうかな?』と微笑んでみる。アルは一瞬困惑したような顔をしたけれどキュッと俺の手を握り返してきた。
「……わかった、そうする」
「…そっか……じゃあ…寝室戻ろっか?」
「…ん……」
こうして俺とアルは薬を片付けた後に部屋に戻った。アルのベッドの方が大きかったのでそっちに一緒に横になる。
…な、なんか力になりたかったのと雰囲気に流されてああ言ってしまったけど…本当にアルはこれで寝付けるのか…?
アルももそもそと布団に入ってきて俺の方を向いて横になる。目の前にはアルの胸があった。
「………」
「………」
なんだかお互い行為の後というわけでもなく、不自然な感じで一緒に布団に入ってしまったせいで妙なぎこちなさがあって変な空気になってしまった。アルをこの距離で見ることに慣れてない恥ずかしさも相まってアルの顔が見れない…
……こ、これじゃあアルどころか俺も眠れないんじゃないか…?
そう思ってテンパっているとアルがまたもそもそっと動いた。布団に潜り込んで俺の体に腕を回している。
「…ッ!!」
緊張していたこともあって身を硬くしてしまう。アルが何度かもそもそ動いて頭がちょうど俺の胸の位置にきていた。そのまま俺の胸にアルが顔を押し付けて深呼吸する。服越しにアルの吐息が胸にかかってなんだか恥ずかしい。
「………ん、たしかに落ち着くかも…」
「そ、そう…よかった…」
どうしたらいいかよくわからなくて手持ち無沙汰になっていた手でアルの髪を梳いてみる。アルはじっとしていた。
でもやっぱり胸に顔を押し付けられてるのは男だけど恥ずかしい…
「……杉田さん…すごいドキドキいってるよ…」
「そ、そんなことないよ…普通だよ…」
「………でもまた早くなったよ…」
ドキドキしてることを指摘されて余計恥ずかしくなってドキドキしてしまう。アルが興味を示して余計熱心に心音を聞こうとして顔を押し付けてくるのでまた恥ずかしくなって…を繰り返していた。でもアルは少しすると満足してくれたのか少しだけ手を緩めてくれた。あるが目をつぶったまま口を開く。
「……でも音聞こえるの…おちつく…」
「………」
「……杉田さん、やっぱりいい匂い、だし…いっしょにねて…よか、った…」
「………」
「Zzz…」
アルの声はだんだんと小さく途切れ途切れになっていき、最後には体からふっと力が抜けてすーすーという寝息が聞こえて来た。やっと決心がついてアルの方に視線を向けていると俺の体に腕を回したままくたっと力を抜いて眠っているアルが見えた。
………よかった…眠れたみたいだ…
ほっとすると今度は俺の方にも眠気がやってきた。くあっとあくびが出て目がしょぼしょぼしてくる。意識がぼんやりとしてきて遠のいていく。
明日…うまくいくといいな…
そんなことを思って少しだけアルの頭に回す手に力を入れるとアルの方の腕にも力がこもった気がした。なんだか幸せな気分で俺も眠りについた。
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