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ピエール

その後しばらく部屋で待機しているとスタイリストさんが入ってきてアルにセットとメイクを施し、俺ら(といってもほとんど星野さんしか意見はしてないけど…)の意見も取り入れながらアルの着る服を選んでくれた。 星野さんによると今回はアルのかっこよさを際立たせるより素で持ってる素材の良さをアピールできる方がいいとのことでアルの格好は黒いパンツと白いシャツというシンプルな格好になった。 胸元を少し大きめに開けて腕には革の紐とビーズなんかでできたブレスレッドを何重にもして巻いている。髪の毛もセットされてなんだか好青年な感じに見えた。アルは化粧やセットの違和感に慣れないようでなんだかもぞもぞ身動いでは自分の格好を鏡に映しては首を傾げていた。 「ではカメラマンの方紹介するのでこちらへどうぞ、ちょっと独特な方ですが被写体の個性を引き出してくれる方なのできっと素敵に撮ってもらえますよ。」 「あ、ピエールさんですよね。以前別のモデルを担当していた時にお会いしたことがあります。」 「………」 星野さんは案内してくれる女の人と慣れた感じで笑顔で談笑している。 ほ、星野さんってなんかもうちょっと人見知りな感じなのかなって勝手に思って親近感湧いてたけど実はかなり優秀なんじゃないか…??というかピエール?? 「ピエール?外国人?」 「あ、アル…」 アルが思ったことをそのまま口にする。全く遠慮しない物言いを一瞬諌めはしたものの俺自身も同じことを思っていた。 星野さんが『あー…』と口を開いて何かを説明しようとしてくれる。でも丁度その時、カツカツとハイヒールの小気味の良い音が聞こえてきて、スタッフの人がよろしくお願いしますと大きな声で挨拶をしている声が聞こえた。それに誰かが「オハヨー」となんだか独特な喋り方で答えている。星野さんは俺とアルの後ろに視線を向けていて、俺とアルはほぼ同時に後ろを振り返った。 「あ〜らぁ、その子が今日のダーリンなのねぇん!!イケメンじゃないのヨォゥ!!」 「ピエールさん、今日はどうもよろしくお願いします。」 「あらぁ!!カズヤちゃんがジャーマネなのねん!!おひさぁ」 「お久しぶりです。でも今回私は教育係でして、いずれはこちらの杉田が担当になります。」 「………」 「…杉田さん、挨拶…」 「えっ…!!あっ、よ、よろしくおねがいしますっ! !」 あまりの衝撃に開いた口が塞がらなくなっていたら星野さんに肘で小突かれて我を取り戻した。慌てて挨拶をする。 今日のカメラマンのピエールだと紹介されたその人は見た目も中身も強烈な人だった。 黄色の髪の毛をアフロヘアーにセットして、その所々が濃い黄色で星柄に染められている。服も真っ赤な地に黄色いハイビスカスの書かれた開襟シャツに、金色の大きな鎖みたいなネックレスをして、真っ白なズボンをはいて、顔には顔半分が隠れるような大きなサングラスをしていた。さらには多分ただでさえ大きめの身長なのに真っ黄色のハイヒールを履いているお陰でアルよりも身長が高くなっている… なんていうかその…ちょっと… 「…オカマ?」 「アルっ!!」 「あらぁ!ハッキリいう子ね、でもそういう子きらいじゃないわぁ!」 「す、すいませ…」 「やぁ〜ん、もう気にしないでちょうだいっ!でも坊や、覚えときなさい私はオ・ネ・エ・さ・んよ♡」 うふんとピエールさんが失礼なことを言ってのけたアルに投げキスを送る。アルはそれをうぇえと露骨に避ける動作をしていた。 確かにその…お、かま…というかジェンダーレスな感じだなとは思ったけれど…!! そして今度はピエールさんが俺の方を向く。慌ててカバンからとりだした名刺を手渡して改めて挨拶をした。ピエールさんは高い位置にある腰を器用に折って俺に顔を寄せてくる。 …近い!! 「ふぅーん?」 「!!」 「………」 「……あの…」 「………『受け』ね…」 「へ…?」 「さすが椿…やるわね…」 「……あ、あの…」 何を言われているのかよくわからなくて聞き返そうとしたけどピエールさんはにっこり笑って『んじゃ、今日はシクヨロ〜』といってカメラの方へいってしまった。ランウェイを歩くモデルさんみたいに腰をくねくねさせて歩いている。 だ、大丈夫なのか?

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