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既視感

こうしてアルの初めてのファッション誌の撮影は始まった。現場にはシャッターの音とピエールさんの声が響いていた。 「そ〜ぅ!!いいわ、いいわぁ!!もっと王道かつエキセントリック!!花のようなキュートさの中に凄艶な男のセクシーさを含めた感じを出してちょうっだいっ!!」 「なにいってんのおじさ…」 「………」 「……ピエールさん…」 たしかに指示はちょっとよくわからないけれどピエールさんの腕は良いらしく、取られた写真はどれも雑誌で見るものみたいだった。ピンヒールにも関わらず器用にしゃがみ、横にスライディングしてはジャンプしてシャッターをきっている。その動作になんの意味があるのかはわからないけれど… ……というか…アルもなんか思ったより手慣れてるな… アルはピエールさんの指示にえぇ?と怪訝そうな顔をしながらも用意されていた白い壁のセットの前に立ち、その手前に置かれたベンチに座ったり、もたれたり、視線を外したりしてポーズを取っていた。 …やっぱり絵になるな…… こういう仕事の現場を見たことがなかったので、はぁ〜と感心して見ていたけれど、俺の隣で同じピエールさんのカメラから送られてくる写真が映るモニターを見ていた星野さんはう〜んと険しい顔をしていた。 ……? 「はい、じゃあ10分休憩はいりまーす。」 スタッフの方のその一言で一気にスタジオ内が賑やかになった。アルもタオルを受け取って戻ってくる。 「アル、お疲れ様」 「……つかれた…」 「あっちのベンチ座ってていいって、少し座って休んでたら?」 「……ん、そうする…」 アルはそう言ってスタジオの端にあるベンチへ向かった。 俺は星野さんに休憩中は何するのか聞かないと… 「…ん〜、悪くはないんだけどぉ〜違うのよねぇ〜…」 「…やっぱりですか…」 「…?」 星野さんを探すと星野さんはさっきのモニターをピエールさんと眺めながら何かを話していた。2人に近づいてみると話してる内容が聞こえてくる。 「……カズヤちゃん、これATEの撮影の時にポーズ何パターンか教えたんでしょう?」 「……わかります…?」 「やっぱりぃ?そーだと思ったわぁ、トーシロにしてはポージングは上手なのになんだか的外れな感じだと思ったのよねぇ、この辺なんか ATE感すごいしぃ……全部ボツね」 「えっ!!これ全部ダメなんですか!?」 「あら、マナブちゃん」 「ま、学ちゃん…?」 思わず思ったことをそのまま言ってしまうとピエールさんと星野さんが同時に振り返った。 全部って…もう500枚近く撮ってるのに…? するとピエールさんが口を開いた。 「マナブちゃん、ファッション誌で500枚ぐらい写真がボツになるのは結構ざらよ?ていうか普通よ」 「えっ…」 「そうだね、まぁ今回のアルの撮影は服がメインのものじゃないし、ボツの理由もまた違うからちょっと多いけど…でもそれぐらいボツになること自体は珍しくないよ。」 どうやらファッション誌っていうのは何百枚も写真を撮ってその中で一番良い1枚を雑誌に載せるものらしい。じっくりポーズを決めて一枚ずついい写真を撮るんじゃなくてとりあえずたくさん撮るんだとか…そう言われてみればテレビの撮影映像とかでこまめにシャッターが切られているところを見たことがあるような気もする… 「で、でも…アルの写真、どれも雑誌で見るものみたいですよ…?」 「それなのよ…それじゃあダメなのよ」 「?」 「今回の撮影はATEの時と違ってアルがメインの撮影だし、それに今日撮りたい雰囲気はATEの時のものとは違うからね。こういうセクシーさ重視みたいな感じだと今日の服やセットとは合わなくてなんだかちがうな〜ってなっちゃうんだ。」 「それに『雑誌で見るものみたい』じゃダメなのよ、売り出しのための撮影なんだから既視感なんて邪魔なだけよ、他と一緒なら他の既に話題性のあるモデルを使えばいいもの。」 「………」 そう言われてみれば確かに先ほどまでの写真はなんだかチグハグなような感じがしてきた…それにアルだけの魅力みたいなものは伝わってこないような気もする… 2人はモニターに向き直りうーんと考えはじめた。アルの方はというと再開される撮影に向けてメイクや髪型を直されている。 「休憩終わりでーす、撮影再開します。」 スタッフさんの掛け声でみんな再度持ち場へと戻っていった。

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