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話題の彼
色々あったアルのはじめてのファッション誌の撮影とインタビューから少し時間が経った…
「うっ…うぅ…」
「………」
「うぅううぅ…」
星野さんがベンチに座って自分の頭を抱え、唸っている。ここ1ヶ月ほどで見慣れた光景すぎて苦笑いが思わずでた。
………まただ…
頭を抱える星野さんの隣に座って声をかける。
「ほ、星野さん…もう済んじゃったことですし忘れましょうよ、ね?しかたないですよ…」
「………うぅぅ…杉田さん…」
星野さんはゆっくりと顔をあげると俺を涙ぐんだ目でみつめた。目に溜まった涙は今にもこぼれ落ちそうだった。
「僕が…僕があの時もっとちゃんと監督をしていれば…アルは…アルはぁ…」
「で、でも!!結果的にアル今とっても人気ですし…結果オーライで…」
「アルは福地蒼司くんや松下佑李くんみたいに正統派イケメンとして売り出すつもりだったんです!!」
星野さんが俺の言葉に食い気味で熱弁した。というのも、前述通りアルはあの雑誌のおかげでSNSを中心に話題が広がり、ATEの広告の謎のイケメンの正体として大きな注目を集めた。おかげでその後もさまざまな雑誌やインターネット上での記事に使ってもらえるようになった。
なのになんでこんなに星野さんが嘆いているかというと、そんなアルを形容する言葉としてどこでも『自由』だとか『奔放』という言葉がつくことになったからだった…
あの撮影の日、いい写真が撮れたことに安堵して…『大丈夫だよきっと、あんなに練習したし…それに今のアルならうまくやってくれそうだなって思うんだ。』と言った星野さんだったがその数週間後見本誌が届いてその言葉をひどく後悔していた。そこには3ページものアルの写真と、さらにアルのインタビューが見開きで1ページで掲載されていて、インタビュー中の写真もアルはいつもの少しぼんやりしたような表情を浮かべアルらしく写れていた。
問題はそのインタビューの内容だった。スマホの画像一覧からアルのインタビューページを写真に収めたものを探し出し、眺める。
滑り出しは順調そうだった。『簡単な自己紹介をお願いします。』という質問に『アルです。カメリア芸能事務所でモデルをしています。』と俺と星野さんが教えた通りの返事をして、その後もしばらくは『初めてのファッション誌の撮影の感想』や『普段美容面で気を使っていることはあるか』などなど俺たちの教えた返答をしていた。おかしくなり始めたのは記者の人が撮影風景を見ていて『お菓子お好きなんですか?』と雑談的な質問をしてからだった。
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