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チョコチップ大戦

こうして星野さん念願のテレビ撮影の日はやってきた。アルが朝から甘いものが食べたいと駄々をこねてコーヒーチェーン店へ甘いフローズンドリンクを買いに寄る羽目になって危うく遅れかけた…星野さんは車を運転しながらもう半分泣きそうになってた… 「はぁ〜緊張するなぁ…アル!!頑張ってね!!言っちゃダメなことはこの間と一緒だから!!あ、でも杉田さんと一緒に暮らしてることはバレちゃったし…聞かれたらうまく返してね!!」 「んん〜…杉田さぁん、チョコチップ底にくっついてとれない〜…」 「ちょっとアル!!聞いてる!?」 一通りの挨拶を終えて控え室に通されても星野さんはそわそわして落ち着かない様子だったがアルはいつも通りだった。ちょっと今回ははりきりすぎてる節のある星野さんに変わって社長がやたら近い距離感でいろいろ教えてくれたがアルはモデルだし、はじめてのテレビなので場の雰囲気がわかればそれだけで十分だそうだ。『和也はああ言ってるけど自然体のアルの方が私は好きだし、大丈夫よ』とも言ってた。きっとテレビでもつくろうよりそっちの方がウケると思うよってそれとなくアドバイスしてくれたんだろう。 でもそうは言われても俺だって少し緊張してるんだよな…アルにとって今回ははじめての他の…いわゆる芸能人の人と仕事する場でもあるし… アルに目をやると星野さんにスタイリストさんがくる前に早く片付けないとと急かされていた。アルはまだチョコチップが残ってると抵抗している。 …アル…マイペースだもんな… それにずっと胸に引っかかっているモヤモヤ感もまだ続いていた。結局その正体はわからないままだ。アルと星野さんがチョコチップについて言い争う横で再度頭を捻ってみたが相変わらずなぜかはよくわからなかった。そしてそんな時にドアがノックされた。アルと星野さんは一瞬静かになってドアの方を見たがすぐに興味は薄れたらしくまた言い争いを再開した、ドアの向こうから声がする。どうやら今日のヘアメイクをしてくれる人は男性の方みたいだ。 「おはようございます。本日ヘアメイクを担当させていただくものです。」 「あ、はーい、よろしくお願いします。」 今だに揉めている二人に変わってスタイリストさんを迎え入れようとドアを開けた。挨拶をして頭を下げるとなぜか頭上でハッと息を飲む声が聞こえた。それに続いて声が聞こえる。ドア越しに聞いた時はわからなかったがひどく懐かしい声だった。 「………学…?」

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