61 / 172

各々のお仕事

……やっぱり、いい人なんだよな… 隣で話す内海先輩を見てそう思った。 星野さんや社長はアルのことは知っているけれど銀のことは知らないから『大変だったね』と言ってくれてもありがたいけれどそれは想像に基づくもので…だから昔のことを知っている内海先輩にそう言われてなんだか少しだけ胸が軽くなった。今までの苦労がちょっとだけ報われたような感じがして、本当の意味で俺の苦労を認めてもらえたようなそんな気がした。なんだか照れ臭くてはにかむ。 「……あ、学、あとそれ…」 「……?…はい?」 「その『内海先輩』っていうの……『翔さん』でいいよ、そっちの方が呼びやすいんでしょう?」 「えっ、あっ…」 「もう先輩後輩でもないし…気にしないで」 顔を上げるとそんなことを言われて、気付かれてたことがなんだか照れ臭かった。お言葉に甘えて翔さんって呼ばせてもらうことにする。なんだかこう…最近近しい距離感で話せる友人みたいなものがそばにいなかったから嬉しかった。 「……翔さんは…その…スタイリストさん?なんですか?」 「ん?うーんそう、かな?いちおう美容室にも勤務してるよ、たまにしか行ってないんだけどね。」 「そうなんですか…」 「うん、おかげさまでちゃんと美容師になれたよ」 翔さんはそう言ってふわっと笑った。そんな風に久々に会う翔さんと小声で話しているといつのまにか収録は休憩に入っていた。翔さんはこの間にヘアメイクを治すお仕事があるらしい。俺も頑張らないと… 「あ、アル!!お疲れ様。」 「ん…ねぇ見てた?いっぱい話せた…」 アルを見つけてそばに駆け寄ると少し嬉しそうな顔でアルはそう言った。なんだか自慢げなようにも見える。 『たくさん喋れたらよくできたってことだよ。』って星野さんに言われてたもんな………でも星野さんが向こうからこっちを恨めしそうに見ているあたり『たくさん』の内容はあまり喜ばしい物ではないのかもしれない… そう思うとちょっとだけ背筋がぞわっとした、考えるのはやめておこう。気をとりなおしてアルに向きなおる。 「そっか、それは良かったね。」 「……?杉田さん見てた?」 「えっ?…あー…ごめん、実はあんまり…」 「えー…」 「ちょっと…高校の先輩と話してしまって…」 そう伝えるとアルが残念そうな顔をしたので少し罪悪感があった。 そうだ…仕事中なんだしちゃんと見てないといけないよね… 熱心にモニターを確認して、スタッフの方と話している星野さんを見ると余計に反省の気持ちが増した。 「ごめんね、次はちゃんとみてるから。でも社長も今回は現場の空気感がわかるだけで十分って言ってたし、たくさん話せたのは本当にすごいとおもうよ。」 「……ふーん…」 アルは拗ねてしまったらしくツーンとして目をそらしてしまった。そうこうしてる間にADさんの休憩終了を知らせる声が響き、みんな自分の席へと戻っていく。アルはツーンとしたまま行ってしまった。 …悪いことしたな…あとでもう一度謝ろう… ふと周りを見回して見ると翔さんも最後の一人のお化粧を直し終えたところだった。こっちを向いた翔さんと目があってお互いにはにかみながら手を振った。そんな俺たちをアルが少しむすっとして見ていた。

ともだちにシェアしよう!