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育ち始めた気持ち

「……それで連絡先交換したんだよね。アルだって会ったことあるんだよ?」 「………」 「すごいよね〜、美容室で働いてる時に声かけられてうまくいけばショーとかのヘアメイクも任せてもらえたりするんだって。」 「………」 テレビの収録を終えて、家に帰ってからも杉田さんはこんな感じだった。 昔会ったことあるなんてそんなこと知らないし……それにオレだって今日頑張ってたし…すごかったし… ソファに座って、前オレのお兄ちゃんだって人がくれた猫のぬいぐるみを抱いてむすっとしてみせたけれど杉田さんはそんなオレの様子に全く気づかず、もっと言えば料理してるのにたまにぼーっとしたりしてなんか上の空みたいな感じだった。 なんかイライラするし、モヤモヤする… 「あ、そうだ、それでさ、翔さんが今度3人で一緒にご飯食べようって」 「……は…?」 「翔さん、アルとも話したいって、アルももしかしたら何か思い出せるかもしれないしさ…週末どう?夜仕事ないし…何食べたい?」 「………」 杉田さんは見るからにワクワクしていた、もやもやよりイライラの方が大きくなる。そのイライラに杉田さんが気付いてくれないことにもイライラしていた。 なんだかいつもよりもご機嫌な顔でこっちを見て首を傾げている。腹が立って露骨にぷいっとそっぽを向いた。 「…………オレ行かない…」 「えっ!?なんで?なんか予定あった?」 「………ない…けど行かない……オレあいつ嫌い……」 オレのその発言を聞いて杉田さんは目を丸くして驚いた後になんだか困ったような悲しいような顔になった。再度顔を背ける。 ……知らない… すると杉田さんは火を止めてタオルで手をぬぐいながらソファのそばまで来た。オレの座ってる方とは反対側に座る。頑なに目をそらし続けた。 「……アル、そんなこと言うなよ……覚えてないんだろうけど…お世話になった先輩なんだよ…?」 「………そんなの知らないし…」 「うん……だから話したりすればさ、思い出せるかもしれないじゃん…」 杉田さんはオレを諭すような声でそう言い続けた。ぬいぐるみをぎゅっと強く抱いてよりそっぽを向く。また頭がズキズキしていた。 「……ねぇアル…?」 「………知らない…」 「………」 「オレ行かない……杉田さん、そんな行きたいなら一人で行けばいいじゃん…」 「………はぁ…わかったよ…」 杉田さんはため息をついてそう言うとまた台所へ戻ってしまった。 ………なんか…しんどい… 頭も痛いし、胸もモヤモヤしてズキズキするし、苦しくなってぬいぐるみに顔を埋めた。 ………しんどい……

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