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決意

「………あ、えと…オレも楽しかったよ…またね…」 「あ…はい…」 ペコっと頭を下げて学が駅に向かって走っていく。改札をくぐったところで学がふりかえったので手を振ると再度会釈してホームに上がっていった。 「………」 何気なく自分の左手に目を落とす。ついさっきまでの自分の行動を思い出していた。 ……オレはあのとき何をしようとしたんだろう… 『じゃあ…電車来るみたいなんで俺行きますね。本当に今日はありがとうございました。』 『ッ…学…!!』 『…?はい?』 さっきまでの会話を思い出す。今日のお礼を言って立ち去ろうとする学をとっさに呼び止めて手を伸ばそうとしていた。 ……あの手で学を引き止めようと思ったんだろうか…そのあとは…? 自分の知らない激情を見た気がして少し怖くなった。 「………っ…っふー…」 ぎゅっと目をつぶって、大きく息を吸い込んでから、吐き出す。身体中の空気と一緒に嫌なものが全部出ていくような感じがした。 脳裏にオレと話せて嬉しかったと本当に嬉しそうに笑う学の顔が浮かぶ。それからどんな人でも魅力を感じずにはいられないようなオーラを纏っていた頬付くんと、ぼんやりした表情の小さな子供みたいなアルくんを思い出した。 「すぅー…っふー…」 最後にもう一度息を吸って吐く、そして目を開けた。ちょうど学を乗せたであろう電車が走り去るところだった。 ………大丈夫… そう胸の中で呟いた。 ………オレは学のいい先輩だから… そう自分に言い聞かせるように繰り返すと初めは胸がじくんっと痛んだような気がしたけれど徐々にその痛みも薄れた。 この6年…こうやってやり過ごしてきたんだ… 「………よし…」 胸の痛みが完全に消えたところでオレも駅に向かって歩いた。思い出していたのは学の本当の気持ちに気付いてボロボロ泣きながら別れを切り出した20の自分だった。 ……大丈夫だよ……もう6年も昔の気持ちだ…20の俺が抑えられたんだ…26のオレにできないわけがない…… 胸の奥の方がまた疼いた気がしたけれどそれはきっと決意だった。 …学を好きになっちゃいけない…

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