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惨状

こうして俺は翔さんとの食事を終えて日付が変わる前に帰ってくることができた。 ……楽しかったなぁ〜…やっぱりアルも来たらよかったのに………ていうかご馳走になってしまった……次機会があれば俺が払わせてもらおう…… そんなことを考えながら家に戻ってきた。鍵を開けて部屋に入る。 「……ただいま〜……あれ…」 寝てるかもしれないアルに気を使って小声で声をかけてから部屋に入るとなんだかいつもと違う感じがした。なんとなく…じめっとした感じがしている。 あれ…なんか湿気すごい…? はじめはもうじき梅雨だからこんなもんかなぁなんて思った、でも少ししてからそんな理由ではないことに気づいた。 廊下を少し行くとピチャ…となんだか湿った音が足元からして、足がじんわり冷たくなる。 「………」 目線を下にやると廊下に点々と水たまりができていて、そのうちの1つを踏んだみたいだった。靴下が水を吸って濃い色になってる。 「………」 水たまりを辿ってみるとそれはお風呂場から寝室まで続いていた。寝室は電気が消えていたのでお風呂の方をのぞいてみる。 お風呂場は、ドアが開け放たれたままで中から蒸気が外へ流れ出していた。 ……湿気はこのせいか… アルが風呂上がりに風呂場のドアを開けっ放しにして、体もろくに拭かずに寝室に向かったのが容易に想像できる…その光景を思い浮かべるとめまいがするような気がしてはぁ…と頭を押さえた。しかたない…と思いつつリビングに移動する。 すると今度はカレーの匂いが鼻についた。 「………?」 ダイニングテーブルの方へ視線を向けてみるが俺が置いていったところにはカレーのお皿はない。アルは無事食べてくれたんだと思った。 匂い…こんなもんか…?外から帰ってきたから気になるだけ……? 首を傾げアルがいつも座っているソファに荷物を置く。そしてそこでやっとカウンターの影になって見えていなかったキッチンの様子が視界に入った。 「……へ…?」 一瞬思考が停止する。そこには割れたお皿の破片と、色が濃くなったカレーの残骸が床に散らばっているのが見えた。 慌てて駆け寄ってみるとどうやらお皿ごと床にカレーを落としたらしい。 廊下といい…キッチンといい……ただ留守番を頼んだだけのはずなんだけど… いい気分で帰ってきたこともあってあまりの惨状に頭が痛かった。 「……ん…ぁ…すぎた、さん…?」 「!!」 突然声をかけられて、少し驚いて振り返るとついさっき自分が入ってきたドアのところに毛布に包まってふあ…とあくびをするアルが立っていた。

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