72 / 172
彼の常識
「……ん…ぁ…すぎた、さん…?」
「!!」
声がかかって振り向くとそこには毛布に包まって眠たそうに目をこするアルがいた。この毛布を引きずってあの水たまりだらけの廊下を歩いてきたんだと思うとまた深くため息が出た。
………毛布も後で洗濯しないと…
「あ…あぁ…アル……ただいま…」
「…………おかえり…」
ここ数日機嫌が悪かったアルが『おかえり』と返してくれて少し驚いた。
寝ぼけているだけかもしれないけど…
「…お、こしちゃった…?」
「………別に…そんな寝れてなかったし…」
アルはここ数日あまり眠れてないみたいで、再会したときみたいにまた顔色が悪く、目の下のクマがひどかった。アルはじっと俺の足元のカレーを見ていてその視線でカレーをなんとかしようとしていたことを思い出した。腕をまくって片付け始める。
……でもこぼしちゃったなら何かこう…ちょっとぐらい片付けてくれてもいいのに…
楽しい気分で帰ってきたタイミングでこの惨状を目の当たりにしてしまったのでこの時の俺はなんだかイライラしてしまっていた。
「……ねぇアル…これさ、こぼしちゃったならせめて流しにだけでもあげといてくれると助かった、な…?」
「……?そう?」
「え…うん…」
なんだかアルの反応に戸惑う。
「それからお風呂も、あがったら体は拭いてね。」
「……だって杉田さんいなかったんだもん…」
アルは不服そうにそういった。なんだかそんな態度にイライラがつのる。
…アルはどうしたらいいか知らないんだから…しかたないよ…
頭の中でそう自分に言い聞かせた。アルはわからないんだから怒っちゃいけないって…でも直後にアルが衝撃的な言葉を放った。
アルはチラッと時計を見てからキッチンでカレーの片付けをしている俺に向かって口を開いた。
「……杉田さん、帰ってくるの早かったね…あいつとえっちしてくるのかと思ってた…」
「………え…」
アルの発言があまりに衝撃的で再度聞き返してしまう。なんだかサーっと一気に頭が真っ白になった。アルは聞こえなかったの?って顔をして、首を傾げなんでもなさそうに再度口を開く。
「…?杉田さん、なんかあいつのこと気に入ってそうだったし…えっちしてくんのかと思ってた…ちがうの…?」
アル嫌味でもなんでもなくそう言っていた。
多分そんなことを聞くことが失礼だとかそんなことは考えてないんだ…それは分かっている。
でもその発言は今までの間に溜まったイライラを爆発させるには十分だったし、溜まっていたイライラの分を差し引いても許せなかった。翔さんとの関係をそう言われたことも、俺がアルと一緒にどういう気持ちで生活しているかが伝わってなかったこともショックだった。
ともだちにシェアしよう!