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プロ・マネージャー
車を運転して高速道路に入る。バックミラーを見てみると唇を尖らせてぶすっとして外を眺める自社モデルのアルの姿があった。不貞腐れている理由はきっと今日の仕事がうまくいかなかったことだけではないと思う。
マネージャーとして何か声をかけてあげたほうがいいかな…?
「アル、そんなに不貞腐れないで、調子が悪い時だってあるよ。」
「……別に…不貞腐れてないし調子も悪くない…」
「うーん、そっかー…」
そういいながらアルは余計不貞腐れてしまった。前よりも下唇が大きく突き出されている。アルはここのところずっとこんな感じだった。
そしてどうやらその原因は杉田さんらしい……いや…正確には杉田さんを怒らせたアルが原因なんだけど…
社長から聞いた話によるとアルがスタイリストの内海さんと食事に行った杉田さんに酷いことを言ったらしい。でもアルは何がいけなかったのかわからないからモヤモヤしているようだ。
2人は…っていうかアルも含めて3人は同じ高校の出身なんだって。
「………」
「………」
車内に沈黙が流れる。
今回はどうやら言った内容も内容みたいだし、アルのそういう部分を教育してこなかったのは僕たちにも責任があるかもしれない。それにアルがこんな調子では相手が杉田さんじゃなくてもいずれは誰か相手に起こった事だろう。
そう思うと正直別の芸能人の方とか方々のお偉いさん相手じゃなくて心底ホッとしている…杉田さんには申し訳ないけど…
一瞬方々のお偉いさんや大物芸能人の方に平然と失礼なことを言ってのけるアルを想像してぶるっと身震いした。
考えるだけで恐ろしい…むしろそう思えばこの早い段階で杉田さん相手に痛い目を見てくれた方がこちらとしては助かる。やっぱり杉田さんには申し訳ないけど。
「………」
アルは相変わらず面白くなさそうな顔で外を眺めている。せっかくのイケメンが台無しだ…
………うーん……どう考えてもヤキモチ…だと思うんだけどアル、気づいてないんだなぁ…
そう思うと半年ほど付き合ってて初めてアルが普通の人間っぽく見えた気がした。思わず笑みが溢れる。うっかり笑い声も漏れてしまってアルに怪訝そうな視線を向けられたので慌てて取り繕った。
仕事の方は散々だけどそんなことはこの際どうでもいい、今回逃した仕事はアルの勉強費用だと思えば安いもんだ、それにこっちにはまだ『奥の手』がのこっていた。
「アル、もう事務所着くからね。着いたら社長が話しあるみたいだから社長室に行くからね。」
「………」
「アル、返事は?」
「………わかった…」
「よし」
バックミラーを眺めアルが返事をしたことを確認してから車を高速道路から下ろした。
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