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一発屋おわり
「来たわね」
今日の仕事が終わって、星野さんが運転する車で会社に戻るとすぐに山田さんに椿のところに連れていかれた。椿はいつもみたいに窓際に赤い服を着て立ってた。オレが部屋に入るとカツカツと赤いヒールを鳴らしてこっちに歩いてくる。
………関係ないけど、オレはやっぱりおっさ…ピエールさんのヒールより椿の方がいいな…
「さあ、アルこっちへ来なさい。」
「………」
てっきりお仕事がうまくいってないって怒られるのかと思ったけれど椿はなんだかイキイキしていた。いつもみたいにオレをソファに座らせ、お菓子をすすめて、山田さんにお茶をお願いしている。
オレはなんだかお菓子を食べる気分になれなくてそのままじっとしていたけど、椿はそんなこと気にせずうふっと笑って目を細めてオレを見てから口を開いた。
「アル、学と喧嘩したみたいね。」
「………」
椿が知っていることに少し驚いたけど椿はなんでも知っているからすぐにその驚きは引いていった。でもその質問にうんともううんとも答えられなくて黙りこむ。
だって喧嘩したっていうか……なんか杉田さんが怒っちゃった…
「あぁ、喧嘩っていうよりアルが学を怒らせたのよね?」
「………」
椿はにこにこといい笑顔のままそう言った。
たまに椿は人の思ってることがわかるのかなって思うときがある……
そして今度の質問にはなんだか居心地が悪くなって椿から目を逸らした。
椿はそんなオレの様子を見てくすっと笑ってから話題を変えた。
「…それはそうと……アル、あなた仕事も調子が悪いみたいじゃない?」
形のいい指でカップをつまんでお茶を飲み、そのカップをテーブルの上に戻して、足を組み直す。それからやっぱり楽しそうに椿はこう続けた。
「…………アル……このままじゃあなた、一発屋おわりね。」
「ッ!!」
笑顔で首を少しだけ傾げながらそう言う椿を見ているとなんだか冷や汗みたいなものが出てきた。
「………」
「………」
しばらくの間オレと椿との間に沈黙がながれた。
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