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現地調査のお仕事

「じゃあ毎日同じで申し訳ないんだけど今日も書類の整理をお願いしますね。」 「はい、わかりました。」 山田さんが今朝も俺に仕事を指定して去って行く。もはや日課になりつつある光景だった。デスクに座って会社から借りたパソコンを立ち上げ書類を作ったり、直したり、整理したりする。 ……俺このままここの事務作業員になるんじゃないだろうか……まぁこっちの仕事の方が前の仕事と似てるしやりやすいんだけど…… ふーっと息を吐き出しながらキーボードを叩く。 アルとギクシャクし始めてからもうすぐ1ヶ月がたってしまう… あれ以来アルとはなにもなかった。はじめのうちは俺を見かけるたびにシュンとしたりおろおろしていたアルだったが、最近はそれすらなくなっていた。 もうアルにはどうでもいいことになってしまったのかな…… それにアルは最近家にあまり帰らなくなっていた。帰ってきても遅くに帰ってきて翌朝早くに出て行く。なにをしているのか気になったが聞くこともできずにもんもんとしていた。 ………もしかして……また女の子とそういうことしてるんじゃ… 何度もそう思った。でも今の俺にはそれをどうにかする権利も、それが本当なのか知ることもできないから… こんな時にいつも銀が愛おしそうな顔で俺を見てくれていたことが思い出されて辛かった。思わずジワっと涙が滲む。最近以前より泣き虫になってしまった気がする。 「杉田さん、1つ言い忘れてました。すいません。」 「えっ!あ…は、はい!」 昔を思い出して胸を痛めているとさっき出て言ったはず山田さんが戻ってきてびっくりした。慌てて顔を伏せ目元を拭った。 やば…見られてないよな… 結局そばにやって来た山田さんは何も言わずいつもと同じ様子でホッとした。山田さんに何かバインダーに入った資料を手渡された。 「中に詳しい場所と時間も書いてるんですが、今日の午後からうちのモデルが出る新しい広告が解禁になるんです。結構大きい広告なのでその反響具合を現地で見てきて欲しいなと思いまして。」 「反響…ですか…」 「ええ、今の若い子はSNSの世代ですから、写真を撮ってる方がいたかとか、足を止めてくださる方がいるかとか、そう言うモニタリングですね。」 「なるほど…」 突然伝えられた仕事内容に少し戸惑いを感じたけれど、こういう業界だからそう言う仕事もあるんだなと思った。山田さんからバインダーを受け取る。 「今日はそちらのモニタリングの後は直帰で構わないと社長が言ってらしたのでそうしてください。」 「あ、わかりました、ありがとうございます。」 「それでは。」 そう言うと山田さんはニコッと笑って背を向けた。 「あ、そうそう…」 「…?」 でも少し行ったところで山田さんが振り返った。片目をつぶって人差し指を鼻と口に当てて俺に少し顔を寄せてくる。 「泣くならもっと人のいないところの方がいいですよ。アルくんじゃ無いですが思わずガバッと行きそうになります。」 「ッ!!」 「ふふっ、冗談です。」 山田さんはそう言って満足げに部屋から出て行った。 「………」 少し時間を置いてカァッと顔が熱くなる。 み、見られてた…!!しかもからかわれた!! 恥ずかしくて思わずしゃがみ込んだ。

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